◇『トラップ 罠』
著者:松本 賢吾 1999.4 マガジンハウス 刊
ハードボイルド小説。舞台は作者松本賢治の作品ではおなじみの横浜。主役は元刑事
の秋元。罠に嵌って警察を辞めた一匹狼が事件にしつこく食らいつく。
事件の発端は、横浜港に流れ込む大岡川にかかる黄金橋下に浮いた全裸の女性の死体。
秋元が刑事になって3年、警官になって8年経っていた。
事件は初め事件性を疑われたが、検視の結果覚醒剤と精液が検出されたことから自殺
説に大きく傾いた。しかし事件は呆気なく解決した。18歳でシャブ中のゲーセンの店員
が自供し血液型も一致したからだ。
ところがその3か月後、情報屋の寿町の住人から死体を捨てる男を見たという証言を得
た。男というのは深瀬建設の社長の息子だという。深瀬建設というのは秋元が今務めてい
るガードマン会社カモメ警備保障の契約先である。
秋元は捜査一課在職中暴力団と癒着、多額の金が彼の口座に振り込まれているという不
可解な証拠を突き付けられ辞職し、今はガードマンをやっているのである。
元先輩の岡沢警部(現深澤建設の部長)の妹麻紀、元先輩でカモメ警備保障社長の後藤、
笠原警部、二宮刑事、深澤建設とかかわりの深い暴力団港竜会、その息のかかった土建会
社土倉建設の社長土倉勲、県警部長から天下った同社総務部長国分などを相手に八面六臂
の活躍をする秋元。助けてくれるのは高校同窓で暴力団名神会の一員佐竹徹、元同僚の倉
持刑事、寿町の手配師堂本などである。
要するに死に体になって倒産寸前の建設会社に食いついてしゃぶりつくそうという暴力
団が引き起こした殺しの連鎖が、元警官で一匹狼の正義漢を奮い立たせてしまったのであ
る。また覚醒剤の国際取引にハマって動きが取れなくなった土倉のドジもある。
最終場面。秋元は深瀬と妻の麻紀が同衾する処におびき寄せられる。現れた悪徳刑事笠
原の銃で深瀬と麻妃と秋元は滅多撃ちにされ傷つくが、危ういところで倉持刑事が現れ救
われる。
だが、土倉が現れ秋元は拳銃に撃たれる。6日間集中治療室で昏睡状態だったが一命は
とりとめる。そうだろう、なんといってもハーボイルドなんだから。
(以上この項終わり)