◇『ヴェロシティ(下)』(原題:VELOCITY)
著者:ディーン・クンツ(DEAN KOONTZ)
訳者:田中 澄江 2010.10 講談社 刊 (講談社文庫)
下巻は事がスピーディに進み、息つかせない。
ビリーは友人で警官の ラリーにメモを見せて対応を相談したが、少し考えさせてと
言って帰ってしまった。その後携帯電話が通じないので自宅に行ってみるとラリーは
死んでいた。
コトルという男が犯人のメッセージを持って現れた。コトルは伝言を終えたのちビ
リーのバスルームで多分犯人に殺されてしまった。ビリーが疑われる証拠が残されて
いるので、犯人されてはかなわないと毛布に包んで、溶岩トンネルに投げ入れた。
いろいろ推理を重ねたうえで、ビリーはバーの同僚スティーヴ・ジリスが犯人だと
確信し、ジリスの家に乗り込み拳銃を突き付けて白状を迫ったが、ジリスは頑強に否
定し続ける。結局ビリーは追及を諦めるしかなかった。
次いでラリーの家に押し入り死んでいるラリーを車に押し込みコトルと同様に溶岩
トンネルに投げ入れてラリーの家に戻る。するとなんとラリーのソファーに捨てたは
ずのコトルがいて仰天する。
犯人が死体を誰かと入れ替えたのだ。
突如ビリーは銃で椅子を狙撃され意識を失う。気が付けば身動きができない状態。
4枚目のメモには「ふたつ目の傷を負う覚悟はできたか」というメッセージが入っ
ていたのであるが、ふたつ目の傷というのは右手の甲から床に釘を打ちつけられる
という拷問だった。幸い床材の梁の上でなかったので何とか抜くことができた。
三枚目のメモに「ひとつめの傷を負う覚悟はできたか」のメッセージがあり、その
後ビリーは車の中でしたたかに痛めつけられて、眉に3本も釣り針を刺された。その
傷もあまり気にならなくなったころ、ようやくこれぞ犯人という手がかりをつかんだ。
ハイウェイに接して大規模なショッピングセンターの開発が進んでおり、そこにヴ
ァリスという著名なアーティストが大きな壁画を描いている。ネットでのインタビュ
ー記事のなかで用いているパフォーマンスのスタイルが4通のメモの語句に酷似して
いること(動き、速度(ヴェロシティ)、衝撃)に気付いた。
ビリーは拳銃、催涙ガスなどで身を固め、ヴァリスのモーターホームに乗り込む。
ヴァリスは「お前がバーバラに与えられるものはどれも彼女には必要ない」とビ
リーに屈辱を与えた。
ビリーは虚を突いてヴァリスを撃つ。恨み骨髄のビリーはリボルバーのありった
けの弾をヴァリスに撃ち込んだ。死体は毛布に包み、件の溶岩トンネルに投げ込ん
だ。
家に戻ると冷蔵庫に虐殺された女性の手が2本出てきた。パソコンには「お前に
とって彼女に血を流させ彼女を切り刻むのは、三つ目の傷だ」というメッセージが
残されていた。そして仕掛けてあった監視カメラにはジリスが映っていた。ジリス
はヴァりスとグルだったのだ。
愛するバーバラが危ない。病院に駆けつけるとジリスが看護師を装ってバーバラ
を救急車に載せてかどわかすところだった。ビリーは救急車内でジリスをなぐり殺
し件の洞穴に投げ込んだ。
結局どの事件でも司直の手はビリーには及ばなかった。ビリーはバーバラを引き
取り、自ら介助にあたることにした。
初めに高速道インター脇にSC宣伝用の巨大看板が出現したことがさりげなく紹
介されていたが、そのアーティストが突如ビリーの攻撃者として現われて驚いた。
ビリーはバーテンダーを辞め、希望と愛そして信頼を旨にバーバラと穏やかな人生
を送るように書いているが、4人もの死体を洞穴に放り込んだ身として、果たして
安穏として寝起きできるものか疑問である。
(以上この項終わり)