11月22日佐久穂町八千穂福祉センターで、食と農NAGANOが主催して「有機給食が地域をひらく」と題して安田節子さんのお話を聞く機会を得た。
せっかく県内で有機学校給食を進めようとしている皆さんが集まるので、ということで佐久平駅前で国会で審議が行われている種苗法改正問題についてアピール行動をしました。
(以下再掲)
第201国会に上程された「種苗法の改正案」は、継続審議となりましたが、法改正の目的や課題、長野県農政における影響などについて6月定例県議会農政委員会で質疑を行いました。
■種苗法の改正法案の概要
種苗法は花やキノコなどを含むすべての農作物での新品種を育成した人の知的財産権を守るための法律です。新品種を開発した人(個人・企業)はその品種登録を行い、農水省に受理されると25年(果樹など永年性作物は30年)の間、「育成者権」という知的財産権が認められ、独占的な販売ができるようになります。
これまで、日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外に流出し、産地化される事例があり、国内生産者にとっては海外輸出の機会を失ったことになります。このため国では、より実効的に新品種を保護するため法改正を行うこととしています。
具体的には、新たに登録された品種=「登録品種」については、自家増殖を許諾制にするとともに育成者が栽培することのできる地域や国を指定することができるようにしました。許諾を得ずに栽培したり、無断で国外に持ち出した場合は処罰されます。
■委員会での質疑概要
Q1.長野県の開発品種で海外流出したものはありますか。県の登録品種で海外登録されている品種はありますか。この法改正だけで海外流出を止めることができますか。
A.これまで明確に海外流出したと公表したものはありません。ぶどうの「クイーンルージュ」については、中国と韓国で品種登録出願しています。海外流出の防止については、種苗法の改正だけではなく、植物検疫等との連携なども必要と考えています。
Q2.新品種の開発に要した費用や期間はどのくらいかかりますか?
A.果樹の新品種開発には、10年から15年かかります。県の新品種開発や技術開発のための試験研究全体の事業費は年間4億円程度の予算です。
Q3.これまで種苗法のもとでは、「農業者であれば登録品種は自家増殖できる」規定となっていました。この法の下で生産者にとって都合の悪いことはありましたか?
A.自家増殖を繰り返すと、品種の持つ形質の劣化等の生産への影響が懸念されます。
Q4.「登録品種は自家増殖できる」と定めてあった法第21条2項が削除されることで、原則自家増殖ができなくなるのですか?
A.自家増殖を禁止したものではなく、「登録品種」について自家増殖するためには許諾が必要となることを定めようするものです。また、伝統野菜などの在来種や「コシヒカリ」や「シナノスイート」など品種登録期間が過ぎた品種=「一般品種」については、これまでどおり自家増殖ができます。
(表1)令和元年度品目別登録品種の作付面積
|
品種
|
|
作付面積ha
|
作付割合%
|
|
うるち米
|
風さやか
|
1,479
|
4.6
|
|
|
天竜乙女
|
133
|
0.4
|
|
酒米
|
山恵錦
|
36
|
0.1
|
|
大麦
|
ファイバースノウ
|
281
|
51.7
|
|
|
ホワイトファイバー
|
189
|
34.8
|
|
小麦
|
ユメセイキ
|
239
|
11.2
|
|
|
ハナマンテン
|
408
|
19.2
|
|
|
ゆめかおり
|
186
|
8.7
|
|
|
ゆめきらり
|
493
|
23.2
|
|
大豆
|
つぶほまれ
|
72
|
3.7
|
|
|
すずろまん
|
20
|
1.0
|
|
|
すずほまれ
|
225
|
11.4
|
|
そば
|
信州ひすいそば
|
90
|
2.4
|
|
|
タチアカネ
|
82
|
2.2
|
|
りんご
|
シナノドルチェ
|
59
|
0.8
|
|
|
シナノリップ
|
89
|
1.2
|
|
|
シナノゴールド
|
303
|
4.0
|
|
ぶどう
|
ナガノパープル
|
168
|
6.7
|
|
|
クイーンルージュ
|
76
|
3
|
|
もも
|
なつっこ
|
109
|
10.5
|
|
なし
|
サザンスイート
|
21
|
2.5
|
|
Q5.県が定めている「許諾実施料」とは何ですか?
A.県が育成した新品種を利用するための使用料です。
Q6.許諾実施料は、どのように設定 されていますか?
A.主要作物・イチゴ・きのこ・飼料作物の種苗等は1%、果樹の苗木は県内30円、県外150円、野菜の種子は県内1%、県外5%となっています。
Q7.主な許諾実施料収入は?
A.シナノゴールドなどのりんごでは260万円、ファイバースノウなどの麦類で260万円、なつっこなどの桃で100万円程度となっています。
Q8.登録品種の生産者はどれほど自家増殖をしていますか?
A.品目によって事情が異なりますが、病害や形質の変異等の観点から、毎年種子を購入いただいております。
Q9.もし、法改正された場合、どの程度の許諾料が発生すると見込まれますか?
A.今後の課題であり現時点で金額を見込むことはできません。今後、育成者権と農家負担の両面から検討を進めていきたいと考えています。
Q10.主要穀物や小規模農家については許諾料を取らなくてもいい判断を都道府県で、できるような法の修正を国に求めるべきではないでしょうか。
A.国への修正の要請については、様々な意見がある中で農家や関係者の意見もお聞きするとともに、国からも説明を受けてどのように対応するか今後考えてまいります。
Q11.法改正の中で、第8条「職務育成品種」とは何ですか?
A.職員が職務で品種を育成した場合に、その権利を組織が継承する品種のことです。
Q12.登録品種以外のいわゆる一般品種の種子を守るという観点から、一般品種の特性の記録、種子の保存、農家が一般品種を自家増殖含めてできる権利を保障する法律が必要ではありませんか?
A.法律をつくるか否かはともかく、品種(種子)については重要な知的財産であり、それを保存保管していくことは重要と考えています。県育成品種や伝統野菜などの品種の保存をしっかりと考えていかなければいけないと思っています。
■これまでの動きと種苗法改正の背景
(1)2019年6月「長野県主要農作物及び伝統野菜等の種子に関する条例 」を制定
戦後日本の食を守るため各都道府県で主要穀物(米・麦・大豆)について、それぞれの地域や風土にあった品種を開発し奨励してきた主要穀物種子法が2018年4月廃止されました。長野県内では、「NAGANO農と食の会」や「子どもの食・農を守る伊那谷」など市民団体が、「なぜ種子法が廃止されたのか」「遺伝子組換作物が入ってくるようになるのではいか」について学習し、長野県に対して種子法に代わる種子条例の制定を求めてきました。
長野県は、こうした県民の声を受け2019年6月「長野県主要農作物及び伝統野菜等の種子に関する条例 」を制定しました。この条例制定に寄せられたパブリックコメントの中に「遺伝子組み換え作物が国内に流入することに対して不安がある」「遺伝子組み換え、ゲノム編集の汚染を受けないためにも県内にそのような種子を入れない、開発しないという担保が必要」という意見もありました。そこで、県は主要農作物等の優良な種子の安定的な供給を図るため、遺伝子組換え作物の一般作物との交雑の防止及び一般作物への混入の防止等を図る、「遺伝子組換え作物の栽培に関するガイドライン」を策定し、2020年4月種子条例とともに施行しました。
(2)市民とともにオーガニック議員連盟が発足
食の安全・安心に向けて動き出した県民の思いは、これで止まらず種子条例が制定されて以降も、食と農の学習会は続いています。今年の2月から3月にかけても小布施町、伊那市、高森町、安曇野市、長野市でゲノム編集や種苗法、学校給食の有機化などの学習会や、映画上映が行われる予定でした(新型コロナウィルスの影響でことごとく延期となった)。
そして、各地で行われた講演会に出席した自治体議員の皆さんが、有機農業を推進する議連を立ち上げようという声があがり、2月4日に「信州オーガニック議員連盟」が設立され50人余の市町村議員や私を含む県議会議員が参加しました。
当日、30年前から食と農のまちづくり条例をつくり有機農業を推進してきた愛媛県今治市の取り組みを聞きました。今治市では、学校給食に地元の低農薬・有機の農産物を使用することで有機農業の拡大や、食育の取り組みにつなげてきています。
おおいに触発された地方議員の皆さんは、それぞれの自治体で「学校給食に有機農産物を」提供できるよう動き始めています。長野県においても2月定例会で、私から「有機学校給食の推進に向け、県が旗を振り、『学校給食有機の日』に取り組むこと」と「5月に開催されるSDGs全国フォーラム・イン長野において、分科会か特別企画でSDGs有機特別フォーラムを開催したらどうか」提案し、前向きに受け止められました。
また、種苗法改正については、ZOOMによる学習会が開催され、各市町村議会において議員提案で「種苗法改正案の慎重審議を求める意見書」の提出が行われたり、市民の皆さんからの陳情や請願を出す支援を行ってきました。
(3)グローバル企業から日本の種子を守ろう!
国はTPP関連で「種子法を廃止」し、「農業競争力強化支援法により都道府県が有する種子生産に関する知見を民間事業者への提供を促進」、さらに「種苗法改正で育成者権を強化する」という流れは種子のビジネス化の促進ということです。ここにグローバル企業が入り、遺伝子組み換え種子やゲノム編集された種子が入ってくる恐れがあるし、正にそこにグローバル企業の儲けを求める狙いがあるとみておく必要があります。
先に紹介した愛媛県今治市では、すでに平成18年に「食と農のまちづくり条例」の中で、有機農業の推進の項目で遺伝子組換え作物の栽培許可を厳格にし、違反した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金まで課しています。同様の条例が各地でつくられていますが、それは市民の中から「遺伝子組み換えの食品は食べたくない」という強い世論があったからです。
(4)食品表示法の改悪とゲノム編集
グローバル企業側の圧力も続いています。「遺伝子組換えではない」表示は、これまで混入率5%未満で使用してきましたが、2023年からは限りなくゼロでなければ使えなくなります。これに反対する署名活動なども取り組まれ、従来の5%未満であれば「適切に分別生産流通管理された」旨の表示が可能となりました。
しかしゲノム編集は様相が異なります。アメリカや中国にゲノム編集研究の先を越された感が強い安倍政権はゲノム編集研究に大きく舵をきりました。安倍政権は、2018年6月閣議決定した「統合イノベーション戦略」の中で、ゲノム編集技術で操作した生物の法的位置付けについて、厚生労働省と環境省が食品衛生法と生態系保全に関するカルタヘナ法での扱いを一気にまとめ、2019年9月解禁されました。しかし遺伝子組換えとは異なり、企業は届け出だけでよく、安全性審査も表示義務もありません。理由は従来の「自然界で起こる突然変異や、化学物質やガンマ線を使った従来の育種技術の変異」と変わらない、外来遺伝子を組み込まないので「種の壁」は超えないという説明が行われてきました。
この流れに対して、遺伝子組換情報室の河田昌東氏(月刊社民2019.5「ゲノム編集の今」参照)は、①DNA分解酵素による塩基配列の誤認が起きる(オフターゲット)、②細胞一個あたり挿入するゲノム編集酵素の量は、10万~1000万倍使い、これにより標的遺伝子は改変されるが、類似した遺伝子も破壊される、③一個の遺伝子が持つ多様な役割に未解明な部分が多い、④マーカー遺伝子(抗生物質耐性のDNAによって目的の遺伝子操作が完了したことを確認する遺伝子のこと)の問題点などを指摘しています。
遺伝子組み換えで消費者の大きな反撃をくらった政府は、ゲノム編集では「従来の変種と変わりない」「証明ができない」などと言い逃れをしていますが、ニュージーランドやEUではゲノム編集について、訴訟が起こされ規制の対象へと変わっています。
(表2)アセタミブリドの残留農薬基準値(ppm)2018年6月現在
|
|
日本
|
米国
|
EU
|
イチゴ
|
3
|
0.6
|
0.05
|
リンゴ
|
2
|
1
|
0.8
|
ブドウ
|
5
|
0.35
|
0.5
|
茶葉
|
30
|
|
0.05
|
キャベツ
|
3
|
1.2
|
0.7
|
トマト
|
2
|
0.2
|
0.5
|
(5)農薬の残留基準の緩和なぜ?
このほか、アメリカでの小麦へのグリホサートのプレハーベストが行われ、日本では2017年グリホサートの残留基準を小麦は5ppmから30ppmへ6倍の緩和がされています。グリホサートについては、2015年、世界保健機関(WHO)のがん研究専門組織である国際がん研究機関(IARC)が、危険度を示す5段階評価で2番目に高い「グループ2A」(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しています。フランスは2019年グリホサートを成分とする一部製品を販売禁止、ルクセンブルクは今年中、ドイツは2023年までに禁止にする予定です。現在、アメリカではグリホサートの使用に伴う発がん性について5万件近い訴訟が行われています。
また、EUや韓国で使用規制しているネオニコチノイド系農薬は、日本においては2015年5月残留基準が緩和されています。ネオニコチノイド系農薬の成分であるアセタミブリドの主な作物の基準値は表2の通りです。明らかにEUやアメリカより緩い基準となっています。
■子どもたちの未来のために食の安全・安心を!
長野県は2006(平成18)年「長野県食と農業農村振興の県民条例」を制定し、これまでに5年ごとの振興計画をたてて施策を展開してきました。現在は2022年度までの第3期計画期間中です。私は、今年度「長野県食と農業農村振興計画審議委員会」の議会代表の審議員を務めることとなりました。「子どもたちの未来のために安全・安心な食と農を」私自身のテーマとして取り組んでいきたいと思います。