便乗改憲論と緊急事態条項を問う!
新型コロナウィルスの感染拡大に便乗して、中国武漢から帰国した邦人について現行法ではできない強制隔離をすることを理由として、憲法に緊急事態条項創設の議論の端緒にしようとする動きが自民党内にあり、野党や与党の公明党、憲法学者などから批判が相次いでいる。
■自民・維新から新型コロナウィルスへの不安に便乗した改憲論
「『このようなことがあったから緊急事態条項を新設しなければならないのだ』という議論を活発に行えば、国民の理解も深まるのではないか」と日本維新の会馬場伸幸幹事長は、民間チャーター機第1便で邦人が帰国した前日の28日の衆院予算委員会でこう言及した。安倍晋三首相は「緊急事態条項を含め、国会の憲法審査会で与野党の枠を超えた活発な議論が展開されることを期待する」と答えた。
1月30日の自民党の会合で伊吹文明元衆議院議長が「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と発言した(産経1月31日)。
続いて2月1日自民党の下村博文選対委員長は、宇都宮市内で講演し、「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。直接関係ないかもしれないが、(国会での)議論のきっかけにすべきではないか」と述べた。大規模災害などへの対応のため憲法に緊急事態条項を盛り込んだ場合でも「国家主義的な強権政治で圧政に向かうことはない」と強調した(日経2月1日)が、公共の福祉が何たるかも理解していない。
■新型肺炎対策と緊急事態条項はまったく関係ない!
これらの発言に対して、上智大の江藤祥平准教授は「現行法で対応できないのなら、憲法ではなく法律の改正をまず検討すべきだ。緊急事態条項を新型肺炎対策と安易に結び付けるのは無責任」と話した(東京2月8日)。信濃毎日新聞は2月9日の社説で「新型肺炎への不安の高まりに乗じるかのような発言は不見識と言うほかない。憲法に緊急事態条項がないことが対策の妨げになっているわけではない」と批判した。
2012年に自民党が発表した改憲草案では緊急事態と認定する要件が緩く、2018年にまとめた「改憲4項目」では大災害時に限定されている。緊急事態条項の最大の問題点は、例外的な状況を理由に憲法を無力化することであり。総理大臣に権力を集中させ法律を政令で制定して国民の権利を制限できるものであり、「9条改正」とともに、もっとも危険な憲法「改正」条項であると指摘されている。
「感染症の対策は、柱となる感染症法のほか、検疫法があり、新型インフルエンザや新たな感染症に備える特別措置法も定められている。現行法で可能な対策を尽くし、不備があれば法を見直すのが筋だ」(信毎2月9日社説)
■自民党改憲論の危険性を露呈
安倍政権が憲法改正に突き進む理由を暴露した今回の便乗改憲論への批判を通じて、自民党改憲論が根本的に、「現行憲法が定めた国民の基本的人権を尊重することを通じて国家による戦争への抑止力とする」ことを棚上げにしようとしていることに最大限の注意を払う必要がある。