リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット or not? (1)

2019年09月11日 14時52分43秒 | 音楽系
モダンヴァイオリンとか現代のクラシックギターなら弦についてはそんなに選定の際迷うことはないと思います。せいぜい、どこそこのメーカーが・・・といったくらいでしょう。

古楽器であるリュートは、弦に関してはある意味「戦国時代」みたいな様相を呈しています。こういった現象はここ数年のことで、それまではそれなりに安定というかそんなに選択肢は多くなかったと思います。

プロ奏者でも人によってどんな弦を使っているか結構異なるし、アマの人もなぜか独自判断(受け売り?)で自説を展開する人もいます。そこで、現時点におけるリュートに使用されている弦についてまとめてみたいと思います。

まず歴史的事実をまとめてみましょう。

ダウランドやヴァイスはガット弦を使っていました。1~3コースは今でいうトレブル用のガット、4,5コースも同様の製法の弦でいけるでしょう。

イタリアンの大型のテオルボも弦長が長いので同様の製法の弦です。

バロック・リュート低音用の弦(6~13コースのバス弦)については、文献ではLyonとかPistoyという名の弦が使われていたという文献があります。(トマス・メイス「音楽の記念碑」1676)Pistoyに関しては、深紅(deep dark red colour)に染められているとあります。昔の絵をみると、そういった色のバス弦のバロックリュートが描かれていることがあります。

ただこれらの低音用の弦に関して、具体的な製法については現代に伝わっていませんし、弦そのものが残っていることもありません。(ホンの切れっ端が残っていたというのはあるようですが)このあたりが昔の弦に関する歴史的な事実です。

楽器に関しては現物がたくさん残っておりそれを製作家が研究し、演奏家がそういった楽器を使っていくことによって、いい楽器ができるようになってきました。そういうことが始まったのは70年代の初め頃からです。ただ弦、特にバス弦に関しては、「お手本」になるものが決定的に不足しており、決定打がないのが現状です。