リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット or not? (4)

2019年09月16日 14時45分25秒 | 音楽系
さて、色んな素材があるリュート弦、どんな弦を張ればいいのでしょうか。いくつかパターンをご紹介したいと思います。

パターン1:ガット系
1~5コース→プレーンガット
6~13コース→バス弦にピストイ、トレブル弦にプレーンガット
{コメント}全部このパターンで揃えると10万くらいかかる。ピストイの性能があと一歩。


パターン2:合成樹脂+ガット系
パターン1のバス弦にピストイ弦の替わりにローデドナイルガットを使う。
{コメント}パターン1よりは遙かに安価。(ピストイ弦が高価)ローデドナイルガット弦はバス弦用だが、4.5kg以上のテンションにしないこと。3kg弱かそれ以下で使う。ただ1年くらいたって切れることもたまにあるので、1年くらいで弦は交換した方がよい。


パターン3:合成樹脂系
1~5コース→ナイルガット
6~13コース→バス弦にローデドナイルガット、トレブルはナイルガット
{コメント}1コースのナイルガットはあまり細いものを使うと切れやすいので、1コースだけナイロンにするとよい。


パターン4:合成樹脂系
パターン3の4~13コースのナイルガットの替わりにフロロカーボンを使う。
{コメント}パターン3より少し明るい音。太いナイルガット弦の温度感受性の問題を解消。


パターン5:合成樹脂系
1~2コース→ナイロン
3~5コース→ナイルガット
6~13コース→金属巻き弦とナイルガットの組み合わせ


ざっくりこんなところですか。ややこしいですねぇ・・・それぞれのパターンもまだヴァリエーションが考えられるし。

パターン1~5の順で音は明るくなります。ちなみに私はパターン4です。パターン4までのバスは音の減衰時間が短いですが、パターン5はバスが金属巻き線なので、他のパターンの3倍近く減衰時間が長くなります。バロックリュートの時代のバスは、今の巻き弦はまだ使われていないので、メイスのいうピストイなどといったガット系の弦です。バロック・リュートのバス弦の減衰時間が長すぎると音が濁ります。消音すればいいですけど技術的難易度は上がります。かといってガット系やローデドナイルガットのバスは全然消音しなくてもよいというわけではありません。多少は必要ですけど、金属巻き弦に比べたらぐっと減ります。

ガット系でお薦めはパターン2、合成樹脂系でお薦めはパターン3、より安定性を求めるなら4です。現状の弦の性能、経済性などを考慮するとこんなところだと思います。

ここまでは(って長々と書きましたが)実は弦の素材の話です。素材的なパターンが決まったら、次に各コースをどのくらいの張力で張るのかというのがとても重要です。ここからの方がむしろ重要かも知れません。はい、あくまでもリュートは面倒くさいのです。

今後も弦の新しい素材や製法には目が離せません。合成樹脂系では、数年前にクレハから太い(最大直径2ミリくらい)フロロカーボン釣り糸がでました。釣り糸にしては非常に沢山のゲージが出ていますので、リュートとかハープに使うことができます。また3年近く前にアキラ社から低音域用のローデドナイルガット弦が登場しました。ガットでは、既述のように6,7年前に耐久度の高い牛のガットが出て来ました。歴史的には馬やロバのガットもあったようです。そのうちどこかの貴族の蔵から大量に昔の弦が発見されて、バス系のガット弦の製法が格段に飛躍するかも知れないし、今までにない化学組成の弦が現れるかもしれません。いずれにせよ鉄板の弦選択が出てくるのはまだ何年も先だと思います。