リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

孤愁の岸(1)

2024年08月13日 14時32分10秒 | 日々のこと

杉本苑子作「孤愁の岸」を読みました。(講談社文庫上下2巻)本作は江戸時代の治水工事、宝暦治水(1754-1755)を描いた小説で、氏が1963年に本作で直木賞を受賞し世に出た記念碑的な作品だといわれています。

宝暦治水といってピンと来ない方も多いかと思いますが、洪水が多発していた揖斐・木曽・長良川合流地点の治水対策を幕府が薩摩藩に「御手伝普請(おてつだいぶしん)」を命じたものです。

桑名の旧市街は揖斐・長良川の合流地点とそれに続く河口に町があり、ナガシマ温泉で有名な桑名市長島町は木曽川と揖斐・長良川に挟まれています。工事は桑名市よりもう10キロほど上流で行われました。

御手伝普請というとなんかほのぼのとした印象を受けますが、ことばの印象とは裏腹に実際は幕府の権力で無理矢理薩摩藩に金と人を出させて行わせた治水対策です。薩摩藩は莫大な出費と人的犠牲を払ってこの難工事を成し遂げました。

桑名の海蔵寺というお寺にこの宝暦治水で犠牲になった薩摩のお侍(全員ではありませんが)の墓があります。工事に携わった薩摩のお侍は「薩摩義士」と呼ばれていて多分治水工事の恩恵にあずかっている地域の人ならその名前を知っているのではないかと思います。