リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

音楽を始めたころ (2)

2005年05月16日 06時59分21秒 | 随想
 この幼少期における2年足らずの音楽体験は、私の音楽における非常に重要な部分を形づくったと思う。惜しむらくは、もう少しつづけていたらよかったのだが、ある時技術的な問題で少し壁に突き当たり、父親の要求に応えられなかった私はヴァイオリンを弾くことを拒否してしまったのだ。内心は続けたいとは思っていたが、子供なりに結構頑固だった私は、父親の弾けという要求に頑として首を横に振った。どうしても弾こうとしない私を見て、父親は急にヴァイオリンを取り上げて部屋の隅の方に力任せに投げ捨てた。弦の張力がかかっていたヴァイオリンは投げられたショックでバラバラに壊れた。塗装されていない内部の木を露わにした私の小さなヴァイオリンを見たことは、得も言われぬショッキングな出来事だった。それ以来父親に対してはちょっとした心の壁が出来てしまったように思う。その数年後父親からまた少しギターの手ほどきを受けることになるが、それにもかかわらずその壁は結局父親が死ぬまで消えなかった。それは私が親から深く関わってもらった記憶がない(かといって虐待されていたわけでもないが)ことと結びついてしまったからかも知れない。とは言え、例えどういう理由で始まりどういう結果で終わったにせよ、幼少期にしかできない貴重な音楽修練をさせ、私の音楽的基盤を作ってくれた父親には感謝をしなくてはならないだろう。

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