(1)憲法は国家の基本法なので、日本では戦後78年憲法改正が行われずに維持してきた意味は大きい。憲法第9条は戦力不保持、交戦権を有しないことから、当時野党第1党の社会党は非武装中立論を唱えて自衛隊を違憲と主張していた。
(2)これに対して自民党長期政権は、憲法前文での国際社会の信義にもとづき名誉ある地位を占めたいことから個別自衛権(専守防衛)は認められるとして自衛隊の合憲を主張してきて、これに近年は当時の安倍首相が憲法の独自解釈で集団的自衛権の行使を容認して、さらに憲法第9条に自衛隊の存在を明記して合憲とする憲法改正を主張、目指していた。
(3)保守思想の強い安倍首相の登場で任期中の憲法改正を目指して、災害救助、防災活動で国民の自衛隊認知度、理解が進んだ中でも国民の中では平和憲法を維持して憲法改正には反対が圧倒的に多かった。
近年は中国の軍事力強化を背景にした海洋進出、尖閣諸島関与に北朝鮮の核開発、ミサイル発射の脅威の影響を受けて日本の防衛力強化にも一定の国民の理解が進み、憲法改正問題にも各種調査では国民の理解度、支持が増していた。
(4)昨年は2月に露によるウクライナ軍事侵攻が始まり、22年4月の調査では憲法改正に「賛成」が44%で「反対」31%を上回ったが、今年の調査では「賛成」は35%で「反対」47%を下回り1年で逆転現象となった。
岸田政権になって防衛費大幅増額を増税でまかなう方針で、安倍元首相の国葬決定から岸田首相の政策決定での独断専行姿勢が強く問題となり内閣支持率も急落して、国民にも憲法改正により首相に権限、権力が集中することの警戒感が出てきたとみられる。
(5)国家の基本法の憲法改正に対して国民の判断、意見がわずか1年で正反対の結果が出るというのも、あまりに揺れ幅が急で大きく日本の民主主義政治が変革期、変動期に入ってきている混迷を示すものでもある。
(6)国家の基本法の憲法は時代の変化、変遷にかかわらず変わらない、不変のものもあれば、時代の変化に合わせて変わるもの、変えなければならないものはあり、日本が戦後78年憲法改正もなく維持してきた基本法の憲法でも改正、変えてはならないものではもちろんないが、国民の憲法改正に対する判断が1年で正反対の結果が出るような事態は正常とはいえずに政治、政権、政府の政治責任は大きい。
(7)世界的に民主主義の危機、後退が言われているが、国民主権者への説明、理解、協力のもとでの憲法問題を考えることが重要だ。憲法改正に対する国民の1年での正反対の逆転判断、結果は、政治、政権、政府と国民主権者との理解が不十分である民主主義の後退、危機でもある。