ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「ソビエト帝国の崩壊」 小室直樹

2007-03-09 12:21:45 | 
奇才あるいは奇人というべきか。

私が十代の頃は、まだ社会主義が輝きを保っていた時代だった。資本主義陣営でありながら、日本は社会主義に傾倒する人たちが、社会の様々な分野で幅を利かせていた時代でもあった。

その傾向が著しかったのが、日教組に牛耳られた学校であり、マルクス経済派が幅を利かす大学の教授たちであり、当然に労働組合であった。更には言論の世界でも、社会主義に理想を見出す人々が数多く存在した。

あまりに左派に偏りすぎた言論の世界に突如登場したのが、小室直樹だった。1980年に「瀕死の熊がのたうちまわる!」と衝撃的な副題をつけて世に出たその第一作が表題の本でした。ソ連の崩壊を予言し、左派言論人に論戦を挑み、既成の常識を覆すその著作は、たちまちにベストセラーとなった。エキセントリックに叫び、吼え、喚く奇行とは裏腹に、その書き記した文章は論理的で、明快で、説得力に満ちていた。ただし、妙な駄洒落がご愛敬。

不思議なことに、その膨大な知識と勉学に関わらず、学問の世界では殆ど業績を残していない。しかし、この人が日本の言論の世界に登場した意義は大きい。左派一色であった当時の日本の言論界にあって、その拠り所であるソ連、共産中国の矛盾を指摘し、理論の不首尾を告げ、理想と現実の不一致を指弾した。王様は裸だと初めて声を上げた言論人、それが小室直樹だった。

小室直樹の拓いた道があったからこそ、渡辺昇一、谷沢永一、長谷川慶太郎らが登場出来たといったら言い過ぎであろうか。進歩的と言われた左派言論人が、実はそうではなかったことを立証したのが小室直樹の実績ではないか。少なくとも私自身に関して言えば、小室直樹の著作を読んで以降、マルクス主義に対する幻想を抱くことはなくなった。

野に遺賢あり、とでも評したら良いのだろうか。十代の私にとって、忘れられない人物であることは確かです。
コメント
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