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ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「蜘蛛の糸」 芥川龍之介

2007-03-23 14:22:20 | 
時として人生は残酷に過ぎることがあると思う。

私は高校、大学とワンダーフォーゲル部(通称ワンゲル)で登山をしてきた。なんで山岳部に行かなかったのかというと、寒いのが嫌いで冬山登山を敬遠していたからだ。でも岩登りには、強い関心があったので、山岳部の連中とは、けっこう付き合いがあった。

大学では、登山をするクラブが集まっての遭難対策委員会にも参加していて、最後はその委員長も務めた。事件が起きたのは、私が大学を卒業した年だった。

山岳部の合宿で、北アルプスの剣岳登攀中の事故だった。山岳部の女性部員が登攀中に、不注意で小さな石を落としてしまい、その石が岩壁の下部で休憩中だった某山岳会のメンバーに当たってしまい、大きな事故となってしまった。

落石をした女性部員に非難が集まったのは致し方あるまい。問題は、山岳部の部長が必要以上に彼女を庇ったことだった。どうもプライベートでも付き合いがあったようで、公私混合との非難が出たのは必然だった。

部長とは、在学時に遭難対策委員会で何度も席を同じくし、随分と協力をお願いしたこともある仲であったので、彼の人となりを知る私も胸を痛めた。当時、長期の入院中であった私の許を、山岳部の若手が何度か訪ねてきて、状況を話してくれた。どうも山岳部のメンバーの大半は、部長に批判的であるようだ。

そうこうしているうちに、山岳部の内紛は困窮を極め、ついには休部状態にまでなってしまった。長年の伝統を誇る名門であったが、こじれた人間関係の修復は難しかったらしい。

部長を非難することは容易い。しかし、我が身に置き換えたらどうだろう?愛する女性が世間から、友人から非難を浴びている様を見て、黙っていられるだろうか。部長という立場からすれば、大いに問題のある態度ではあるが、一人の人間としてならば判らないでもない。いや、共感できる。

正直言えば、部長は頑なに過ぎた。あまり器用なほうではなかったと思う。事故を起こした当の女性は、退部したのはともかく、休部になったことへの引け目から大学から姿を消したと聞いた。部長との仲も、自然に遠のいてしまったと風の噂で耳にした。結局のところ、全てが悪いほうへ転んでしまった。

なにが悪かったのだろう。どこで間違えたのだろう。人生においては、その判断の是非が、唐突に問われる場面がある。決断の難しさ、問われる結果の無惨さには、忸怩たる思いを禁じえない。

振り返ってみて、冷静に考えてみれば、違う判断、異なる結果はあったと思う。しかし、当時の逼迫した状況がそれを許さなかったのだろう。追い詰められた精神状態で、ベストの決断は難しい。こんな時の決断は、日頃歩んできた人生の蓄積から生まれるのだろう。だからこそ、浮「。

表題の短編は、読んだことがある方も多かろうと思う。まさにギリギリの状況下における、無造作な決断が招いた結果に、思いを複雑にされたことだと思う。残酷といえば残酷な結末。でも、それもまた人生なのだろう。そして、きっと誰の人生にも訪れるや知れぬ状況なのかもしれない。

生きていくことは、何と容易く、無造作で、そして時として残酷なものなのだと思う。
コメント (11)
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