ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「ザ・コクピット」 松本零士

2007-03-20 09:25:48 | 
世の多くの女性は、煌くダイヤの指輪や、華麗な着物に憧れるようだ。一方、男どもときらた、鈍く輝く銃器や、残酷なきらめきを見せる刃物に夢中になる。

幼き子供すら殺し、由緒ある建造物も破壊する殺傷兵器に憧れるのは、どうも男だけのようだ。

実際、私も憧れた。ドイツの名戦闘機フォッケ・ウルフの華麗なシルエットに惹かれ、重巡洋艦妙高のバランスのとれた船影に夢中になった。ラブレスのフォールディング・ナイフの危ない輝きに見惚れ、ワルサーP38の美しい造形に虜になった。

武器というものは、ひたすらその機能のみを目的として作られる。その機能とは、人を殺し、敵機を撃ち落し、相手を切り裂くことにある。目的はいざ知らず、その機能優先の思想に裏づけされた造形の美しさは、筆舌に尽くしがたい魅力があると思う。

されど、その機能美の極致である武器を手にして、実際に戦場に立ったならば、そこに美は存在しない。戦場はひたすらに乱雑で、醜悪で、惨めで残酷だ。そのことを教えてくれたのが表題の漫画だった。当時は「戦場漫画シリーズ」と銘打っていた覚えがある。

作者である松本零士が描く武器は美しい。戦車は雄雄しく、戦闘機は華麗で、ライフルは神々しさすら感じさせる。しかし、その武器を手にして戦う人間たちは、愚かで、情けなくて、哀しいものだった。魂を打つ勇気は、腐臭を放つ汚泥に塗れ、堅い友情は、浅ましい裏切りに踏み躙られる。家族への愛は、敵への憎悪にかき消され、恋人への想いは、冷たい組織の重さに蹂躙される。

武器は美しいが、戦場はそうではないことを教えてくれたのが、松本零士の描く戦場漫画だったと思う。しかし、分っていても、武器の美しさに目を惹かれてしまうのだから、男って奴は度し難い生き物なのだと思わずにはいられない。

本当に、人間って奴は矛盾の塊だと、つくづく思います。でも私、そんな矛盾だらけの人間が嫌いではない。だって、これこそ人間だもの。神様、ご勘弁あれ。
コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする