ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「氷の男」 フィリップ・マーゴリン

2007-03-30 09:40:31 | 
とくかく展開が読めない。二転三転は当たり前、何が起こるか分らない面白さ、それがマーゴリンの面白さだと思う。

アメリカで大人気の法廷サスペンスは、弁護士が作家であることが多い。それゆえ、法廷の内情などが詳細に語られることが多いが、マーゴリンは違う。腕利きの刑事弁護士であるにも関わらずマーゴリンには、法廷の内情など背景に過ぎず、物語の構成にこそ作家の腕のふるいどころと考えていると思う。

次々と読者の前に提示される新しい局面は、物語がどこに向かうのかさえ予測させない。しかも、最後の最後にどんでん返しを持ち込んでくるから、実に憎たらしい作家である。私が初めて読んだのは、昨年このブログでも取り上げた「暗闇の囚人」だ。その時書いたと思うが、言葉を絶する結末に呆然としたものだ。

それに比べれば、表題の作品はそれほど驚嘆すべき結末を用意しているわけではない。しかし、主人公の苦悩には立場を超えて共感させられた。多分、主人公の苦悩は、作者本人の苦悩でもあるのだろうと思う。

仕事も中味も違うが、私とて仕事上の苦悩はある。クライアントを信じたいが、視点を変えて冷静にみれば、やはり脱税との疑いは拭いきれない。そんな場面に何度となく出くわしている。一応割り切って仕事をしているが、割り切れない場合も少なくない。

脱税幇助はしたくない、絶対に。でも結果的に手を貸しているかもしれない・・・そんな疑念にさい悩まされることも、たまにはある。たまだから、まだ悩むだけで済む。それが常態にになったら、私の倫理観は磨耗し、麻痺し、ついには脱税請負人に成り下がるかもしれない。本当に浮「と思う。

姉歯建築士にせよ、ライブドアの宮内・税理士にせよ、きっとどこかで職業的倫理観を投げ打ってしまったのだと思う。妙な言い様だが、金だけでは転ばないと思う。だからこそ怖い。マーゴリンの法廷サスペンスが魅力的なのは、犯罪にまつわる内面的葛藤を抉り出すからこそだと思う。

どうもマーゴリンとは、微妙に波長が合う気がする。読むと何時だって悩まされる。そのくせ読むのを止められない。困ったものだ。
コメント
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