ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「人狼の四季」 スティーブン・キング

2008-02-12 12:24:37 | 
この人がいなかったら、これほどホラー小説やホラー映画が一般的な人気をえることはなかったと思う。

もちろん、ドラキュラのような怪物や、四谷怪談のようなお化けをを取り上げた作品は、19世紀以前から数多く存在した。それなりに売れていたと思うが、やはりどこか「くだらないもの」的印象は否めないと思う。

キングだって、最初の頃はこの蔑視から逃れることは出来なかった。しかし、読んでみれば分るように、キングのホラー小説はどこかが違った。簡単に言えば、物語として優れていた。

ホラー小説が恐怖場面に力を入れるのは当然だ。しかし、キングは登場人物のキャラクター造型から、作品の舞台となる場所の設定に至るまで細部に気を配った。読者の共感を呼び起こすに足りうる場面を必ず設定した。読者を作品に引き込ませる文章力があった。そこが従来の古典派ホラー作家とは違った。

実際キングは、ホラーでない小説だって十二分に面白い。映画にもなった「スタンド・バイ・ミー」や「刑務所のリタ・ヘイワース」(映画名はショーシャンクの空に)は、普通の小説としても上出来だと思う。

アメリカに限らないが、子供の頃はスポーツが出来て、明るく活発で、ちょっぴり悪っぽい男の子が人気者だったりする。反面、内向的で大人しく、真面目で地味な子供はわりを食う。少年時代のキングは、間違いなく後者であったと思う。

明るい笑い声が響く放課後の教室の一角から少し離れて、静かに微笑みながら、積極的に加わる勇気はない少年の姿を思い描くことが出来そうだ。もしかしたら、苛められたり疎外されたこともあったかもしれない。でも、一人ではなかったと思う。友達が寄り添う幸せを知っている少年であったことは、その作品からもうかがい知れる。

感受性の高かったキングは、空想力豊かな子供だったのだろう。その観察眼と想像力が希代のホラー作家スティーブン・キングを生み出したのだと思う。

そして幸運な作家でもある。他のホラー作家たち、マキャモンやクーンツは決してキングに劣らない作品をいくつも書いている。しかし、その作品が映画化されると、原作の素晴らしさは失われ、良くてB級ホラー、たいがいが駄作映画に終わる。

ところがキングの作品の映画化は成功例ばかり。ハリウッドの女神が、キングをえこひいきしているのかと思いたくなる。既に十分に稼いだキングだが、まだまだ創作意欲は衰えることを知らない。多分、これからも名作を世に輩出し続けてくれると思う。

ちなみに表題の作は、長い間幻の作品として知られた短編です。無理に読む必要はないと思いますが、イラストとのコラボレーションが素晴らしい珍品でもあります。アメリカの本は、表紙を除けばあまりイラストに力を入れないのが通例ですが、この作品は例外というか、わざわざイラストを豊富に入れて構成されています。

私は長いこと、探していたのですが、先日古本屋で発見。嬉しさあまって、ここに書いている次第。まあ、ファン限定の楽しさですがね。
コメント (6)
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