隣の芝が綺麗に見えるのは、いつの時代も変らないらしい。でも、裏庭なんだよね。
私は十代の頃、渋谷、原宿、代々木そして新宿あたりをよくうろついていた。必ずしも遊んでいたわけではない。原宿と代々木は塾と予備校があったからだし、渋谷は当時少なかった大きな面積の本屋さんがあったからだ。ちなみに新宿はもっぱらパチンコ。出玉は渋いが換金率が良かったので、ここの新装開店は見逃せなかった。
その日も新装台に当たり、上手く稼いで帰宅しようと夜の明治通りを自転車で駆け抜け、渋谷で玉川通りに入ったところで一休み。懐が暖かいので、なにか甘いものでも買って帰ろうと東急のお菓子売り場をうろついていた時だ。
「よ~、ヌマンタじゃん」と声をかけられた。誰かと思ったら、小学校の時の級友のYだった。やけに派手なスーツを着ている。あれ、たしか高校中退だと聞いていたが、ヤクザに就職でもしたのか?そんな根性あったっけ?
そんな疑問は口に出さずに、「お~、久しぶり」と返事して「あれ、お前甘党だったけ?」と不思議がると、「いや、連れが買い物してるだけだよ」とテレ笑い。
「お前、相変わらず甘党だな」と言われて、「お~よ、一働きした後の疲れた身体には甘いものが一番さ」と答えた。Yは変らねえなと笑いながら、「あれ、ヌマンタ学生だろ?、バイト帰りか?」と訊くのでパチンコだよと答えると「しょもねえ~」と爆笑している。
急に真面目な顔になり、「おい、もっと稼げる仕事があるぜ」と言うので、なんだそりゃ?と訊ねると「ス・カ・ウ・トさ」と自慢げに答える。
へえ、芸能プロダクションにでも就職したのかい?と訊くと「まあ、似たようなもんさ」と口を濁した。なるほど、それで渋谷か。
私が「俺はスカウトとかナンパには向かないから無理だよ」と返すと「そりゃそうだ」とバカ笑いされた。ちょっとムカついたが事実なので仕方ない。
丁度そこへYの連れと思しき女性がやってきた。えらくキャバい女性だった。胸のふくらみが強調された派手な服装が目立つが、どうみても20代後半であり、愛想笑いの片鱗すらない。Yとも親しげには見えない。なるほど、これがスカウトの成果か。
となると、こりゃ普通の芸能プロじゃないなと感づいた。おそらく風俗店相手であろうと想像がつく。Yとはすぐに別れたが、妙な仕事があるものだと感心した。遊び人のYには向いているかもしれない。
その後三月としないうちに、Yが大怪我して入院したとの噂を聞いた。どうも仕事上の揉め事らしい。どうやら、けっこう危ない世界らしい。
その後、渋谷の道玄坂あたりを通ると、あからさまに若い女性に声をかけている派手ないでたちの男性たちを散見するようになった。どうやらナンパだけではないようだ。スカウトという仕事はけっこうあるらしい。
Yがどうなったのか、その後のことは知らないが、スカウト業界の人たちとはプロモーター絡みで関ることがあるので、単に風俗店のみならずアダルト・ビデオから温泉コンパニオンまで取り扱う幅広い仕事だと知った。ただ、裏方の仕事なので世間的には無名の業界であった。
その業界の知名度を一気に世間にひろめたのが表題の漫画だ。週刊ヤング・マガジン誌に掲載されるや、一躍人気を博しTVドラマ化までされたと聞いている。
綺麗な女性と知り合えて、しかも金になるというので、若者がスカウト会社に就職希望だと押しかけたらしい。でも、私の知る限り、この漫画が出た時には、既に不況の風が吹き荒れる惨状であった。
もともと裏の業界とのつながりが深いので、闇金融やヤクザに流れたなんて話も聞いていたが、それが漫画でネタとして使われているのを見ると、私はほんの一部を知っていただけのようだ。
バブル崩壊以降、終身雇用と右肩上がりの給与体系が崩壊したため、既成の価値概念を信用できなくなった人たちには、このような風俗スカウトや闇金融の世界は魅力的に見えるらしい。
気持ち、分らないでもないが、止めておけと忠告したい。綺麗な女を連れまわし、高級車に乗り、札束きって派手な暮らしをできる連中なんざ、ほんの一握りだ。大半は安い給金でこきつかわれ、消耗させられ、最後には放り出される。
下手をすれば刑務所に放り込まれる覚悟なしでは生きていけない世界であり、命を失う覚悟さえ必要かもしれない。Yがその後どうなったのか、私は知らないが、他の知人でこの業界に入って行方不明の奴がいることは知っている。
表題の作品は、まだ連載中なので、どのような結末を迎えるかは分らない。でも、その舞台となった業界で、本当にハッピーエンドを迎えられた人は極めて稀少である現実だけは知っておいて欲しいものです。
私は十代の頃、渋谷、原宿、代々木そして新宿あたりをよくうろついていた。必ずしも遊んでいたわけではない。原宿と代々木は塾と予備校があったからだし、渋谷は当時少なかった大きな面積の本屋さんがあったからだ。ちなみに新宿はもっぱらパチンコ。出玉は渋いが換金率が良かったので、ここの新装開店は見逃せなかった。
その日も新装台に当たり、上手く稼いで帰宅しようと夜の明治通りを自転車で駆け抜け、渋谷で玉川通りに入ったところで一休み。懐が暖かいので、なにか甘いものでも買って帰ろうと東急のお菓子売り場をうろついていた時だ。
「よ~、ヌマンタじゃん」と声をかけられた。誰かと思ったら、小学校の時の級友のYだった。やけに派手なスーツを着ている。あれ、たしか高校中退だと聞いていたが、ヤクザに就職でもしたのか?そんな根性あったっけ?
そんな疑問は口に出さずに、「お~、久しぶり」と返事して「あれ、お前甘党だったけ?」と不思議がると、「いや、連れが買い物してるだけだよ」とテレ笑い。
「お前、相変わらず甘党だな」と言われて、「お~よ、一働きした後の疲れた身体には甘いものが一番さ」と答えた。Yは変らねえなと笑いながら、「あれ、ヌマンタ学生だろ?、バイト帰りか?」と訊くのでパチンコだよと答えると「しょもねえ~」と爆笑している。
急に真面目な顔になり、「おい、もっと稼げる仕事があるぜ」と言うので、なんだそりゃ?と訊ねると「ス・カ・ウ・トさ」と自慢げに答える。
へえ、芸能プロダクションにでも就職したのかい?と訊くと「まあ、似たようなもんさ」と口を濁した。なるほど、それで渋谷か。
私が「俺はスカウトとかナンパには向かないから無理だよ」と返すと「そりゃそうだ」とバカ笑いされた。ちょっとムカついたが事実なので仕方ない。
丁度そこへYの連れと思しき女性がやってきた。えらくキャバい女性だった。胸のふくらみが強調された派手な服装が目立つが、どうみても20代後半であり、愛想笑いの片鱗すらない。Yとも親しげには見えない。なるほど、これがスカウトの成果か。
となると、こりゃ普通の芸能プロじゃないなと感づいた。おそらく風俗店相手であろうと想像がつく。Yとはすぐに別れたが、妙な仕事があるものだと感心した。遊び人のYには向いているかもしれない。
その後三月としないうちに、Yが大怪我して入院したとの噂を聞いた。どうも仕事上の揉め事らしい。どうやら、けっこう危ない世界らしい。
その後、渋谷の道玄坂あたりを通ると、あからさまに若い女性に声をかけている派手ないでたちの男性たちを散見するようになった。どうやらナンパだけではないようだ。スカウトという仕事はけっこうあるらしい。
Yがどうなったのか、その後のことは知らないが、スカウト業界の人たちとはプロモーター絡みで関ることがあるので、単に風俗店のみならずアダルト・ビデオから温泉コンパニオンまで取り扱う幅広い仕事だと知った。ただ、裏方の仕事なので世間的には無名の業界であった。
その業界の知名度を一気に世間にひろめたのが表題の漫画だ。週刊ヤング・マガジン誌に掲載されるや、一躍人気を博しTVドラマ化までされたと聞いている。
綺麗な女性と知り合えて、しかも金になるというので、若者がスカウト会社に就職希望だと押しかけたらしい。でも、私の知る限り、この漫画が出た時には、既に不況の風が吹き荒れる惨状であった。
もともと裏の業界とのつながりが深いので、闇金融やヤクザに流れたなんて話も聞いていたが、それが漫画でネタとして使われているのを見ると、私はほんの一部を知っていただけのようだ。
バブル崩壊以降、終身雇用と右肩上がりの給与体系が崩壊したため、既成の価値概念を信用できなくなった人たちには、このような風俗スカウトや闇金融の世界は魅力的に見えるらしい。
気持ち、分らないでもないが、止めておけと忠告したい。綺麗な女を連れまわし、高級車に乗り、札束きって派手な暮らしをできる連中なんざ、ほんの一握りだ。大半は安い給金でこきつかわれ、消耗させられ、最後には放り出される。
下手をすれば刑務所に放り込まれる覚悟なしでは生きていけない世界であり、命を失う覚悟さえ必要かもしれない。Yがその後どうなったのか、私は知らないが、他の知人でこの業界に入って行方不明の奴がいることは知っている。
表題の作品は、まだ連載中なので、どのような結末を迎えるかは分らない。でも、その舞台となった業界で、本当にハッピーエンドを迎えられた人は極めて稀少である現実だけは知っておいて欲しいものです。