ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

黄泉がえり 梶原真治

2010-07-12 12:39:00 | 
多分、死者は苦手だと思う。

お化けや幽霊には遇った事がないので分らないが、私はおそらく怖がるのではないか。ホラー小説やホラー映画をけっこう怖がっているので、お化けの実物に遇えば当然に怖れると思う。

ところが死者は違う。死者は怖いとは思わないが、さりとて平静でもいられない。白状すると、死んだ人に接するのは苦手だ。死体のそばにいると、なぜだか不安な気持ちにさせられる。苦手ではあるが、怖いとは少し違う。

死者を悼む気持ちはある。悼む気持ちに偽りはないが、それでも死が身近にある現実には不安にさせられる。これは本能的なもので、理屈や論理ではないと思う。

だから死者が甦るといった話は苦手だ。ドラキュラやゾンビならまだ理解できる。あれはあれで別物だから。でも去年、葬儀までやり、心の整理が出来たと思っていたら、その当人が甦って戻ってきたらどうする?

困る、と思う。嬉しい気持ちもあるだろうが、戸惑うであろう。訃報に愕然とし、葬儀で哀しみに囚われ、それでも心の整理がつくには歳月を要する。ようやく心落ち着かせ、心のなかでの弔いを済ませて訪れた平穏な日々。

そんな最中に、故人がいきなり甦って戻ってきたらどうなるのか?

表題の作は、タイトルからしてホラーの匂い濃厚だ。私もそのつもりで手に取った。何故、死者は甦ったのか、甦った死者は再び家庭に、会社に、社会に戻ることができるのか。

ホラー、サイコ、社会問題?

いやいや、見事に裏切られた。よくよく考えてみたら著者は寡作ながらもSF小説で名を上げた人だ。心優しき甦りし死者たちが、もたらしたささやかな幸せ。

ホラーどころか、癒されるSF小説なのでしょうね。ちょっと意外な驚きでしたよ。
コメント (4)
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