推理をしないどころではない。
捜査もしなければ、訊き込みもしない。それどころか、顧客である依頼者の話しさえ満足に聴いていない。それでも事件を解決する名探偵。
生活に困らぬ財閥の御曹司であり、日本人離れした美男子であり、行動力抜群の快男児でもある。しかしながら推理もしないし、捜査もしない。
名探偵・榎木津礼二郎には、答えはあっても途中経過はない。解答はあっても、理由は分らない。でも、事件は解決する、それがどんな迷宮入りの事件であったとしてもだ。
ミステリーを数多読んできた私だが、こんな名探偵みたことない。常識的に考えれば、迷探偵なのだろうが、いかな難事件でも快刀乱麻の活躍で解決する名探偵であるのも確かだ。
京極堂という希代の陰陽師を現代に甦らせた京極夏彦が生み出した、奇妙奇天烈な名探偵・榎木津礼二郎。その活躍を知りたければ、本書を読むしかない。
ただし、名探偵・榎木津を知るには本書は唐突すぎる。京極堂の作品を最低1冊は読まないと、訳が分らないことになる。
種を明かせば、この名探偵、他人の記憶が見える。ただ見えるだけなのだが、本人しか知らない秘密も見てしまえる超能力探偵なのだ。見えるだけなので、動機も背景も分らない。ただ、答えだけが分る。だから途中経過が抜け落ちて、最後の答えだけが分る。
「この世に不思議なことなんてない」と断言する京極堂が、唯一答えに窮する人物でもある。やたらと理屈っぽい京極堂に飽きたら、この名探偵の活躍に呆けるもいいだろう。
ただし、作者は京極夏彦である。したがって、長い、分厚い、重いの三重苦に加えて、最後まで読まねば顛末が分らない。おかげで私の手首は痛い。重すぎるんですよ、本が。
これさえなければ、もっと多くの人に読んで、楽しんでもらいたい作品なんですけどね。
追記 本来、週明けの火曜日に更新予定でしたが、当日出張のため本日更新した次第。