世界最大のスメ[ツの祭典といえば、やはりサッカーの世界一を決めるワールドカップだろう。
そのワールドカップには縁のない選手というものが、確かに存在する。優れた選手でありながら代表に選出されなかった人もいれば、自らの信念で、代表を断った選手もいる。個人としては優秀でも、チームが弱体であったためにワールドカップには出れなかった選手もいる。
たとえばフランスのカントナ。あの年代では最も優秀なフランスのFWだったと思うが、自己主張があまりに強く代表には呼ばれたことはあっても、最後ははじき出された。
またオランダのルート・フリット(メディアによってはグーリットと訳される)。88年のヨーロッパ選手権でのオランダの優勝は、フリットの活躍なくしてはありえなかった。ライカールト、ファンバステンのトリオを当時、最強の組み合わせであったと確信しているが、代表は自らの信念で辞退している。
忘れがたいのは、リベリアの怪人ことジョージ・ウェアだ。初めてそのプレーを見たときは、とても人間とは思えなかった。その驚異的な身体能力は、当時の最優秀選手に相応しいものであった。ただ、小国リベリアは、とても予選を勝ち抜ける国ではなく、遂にワールドカップへの出場は叶わなかった。
監督が無能で出れなかった選手もいる。フランス大会に初出場を決めた日本の三浦カズがそうだ。アマチュアでたいした実績もないくせに、岡田コーチはなぜか監督になってしまった。自分に自信がない素人監督は、自分を「おかちゃん」と呼ぶ選手を容認できなかった。当時、数少ない海外でのプロ経験のあった三浦カズは、これで代表を放逐された。対戦国から「オカダからのビック・プレゼント」と揶揄されたのも当然だろう。
もっとも、出場できても活躍できなかった名選手も少なくない。才能も実績もありながら、ワールドカップでは活躍できなかった選手は、本当に多い。逆にワールドカップでのみ輝いた選手もいるから、本当に不思議な大会だと思う。
日本だと、中村俊輔が前者の典型だと私は考えている。スコットランド・リーグでの大活躍。前年のプレ・ワールドカップであるコンフェデェレーション・カップでも大活躍。あの見事なミドルシュートや、得意のフリーキックを思えば、活躍が期待されたのも当然だろう。
もちろん、ジーコ日本代表監督もチームの主軸としての活躍を期待していた。しかし、ドイツ大会の結果は不様な予選敗退。周囲の期待を大きく裏切った。前トルシェ監督からは代表をはずされ、岡田監督の下での南ア大会でも怪我でわずかな時間しか出場できず、遂に代表引退。
まさに、ワールドカップでは活躍できなかった不運な選手である。しかし、決して能力の低い選手ではない。それどころか、チームを支配できる数少ない才能の持ち主でもある。
なにせ、代表でも所属のチームでも、俊輔が居ると居ないのでは、まるで違ったチームになるほどの影響力のある選手だ。マリノスはもちろん、セルティックでも俊輔が居る時と、居ないときでは違った戦術をとっている。
それゆえに、トルシェはチームから排したぐらいだ。オシムはチームの主軸を遠藤に移して、俊輔のためのチームとなることを拒否した。なにより、代表の選手たちは、俊輔が入ると、彼に合わせたサッカーをしてしまう。
なぜか? その秘密の一端が表題の本に現れている。
とにかく寝ても覚めてもサッカーのことばかり考えている。体が大きくなく、足も速くない自分が、いかにサッカーをするか。それを常に考え続けた。考えて、考え抜いて、それを通称・俊輔ノートに書き記し、それを実践することで実力を伸ばした。
その一端が書かれているのが表題の作品だ。話題作の多い幻冬舎からの出版だが、正直言えば内容が薄い。おそらく俊輔からのインタビューをまとめたものなのだろうが、重複する内容が多く、その構成には無駄が多い。
せめて、俊輔ノートの一部が写されていれば、もう少し具体的なものとなったのでしょう。やはり、インタビューの再構成では、どうしても中味が大味となる。つまるところ、幻冬舎の企画唐黷フ本でもある。こんなの新書で出して欲しくない。
だからサッカー好きな人で無い限り、私はお薦めしません。ただ、俊輔に興味がある方なら、ざっと流し読みしておいて良いと思いますがね。