男は我慢。
昨今、滅多に耳にしない言葉ではあるが、私にとっては至上の金言である。とはいえ草食系男子なるものが持て囃される昨今、いささか時代遅れな観は否めない。
省みてみれば、ミステリーの世界でハードボイルド小説が流行ったのは60年代が中心でバブルの時代には死語に近かった。いや、死語どころか、パロディの対象でさえあった。
だからこそ敢えて奨めたいのが50年代から60年代にかけて、一世を風靡したハードボイルド小説を。今どきの若い子ならば「え~、信じられない~。キャハハッ」と笑いこけそうな頑固な男たちの物語こそ、今の時代に必要ではないか。
権力に媚びず、金に跪かず、魅惑的な女性の裸身にすら平然と背を背ける男たち。その代表とも言えるのが、ハメットの描くところのサム・スペードだ。
己のうちに打ち立てた確固たる信念にのみ従い、心のうちの葛藤を決して表に出すことはない。いささか気障な優しい言葉を囁くが、行動は断固たる非情さをもって行う。
頑固?意地っ張り?やせ我慢?
いくらでもバカに出来そうだが、それでも私は憧れてしまう。決して賢い生き方ではないのだろうが、その骨太な生き方に敬意を持たずにいられようか。
優しさが持て囃され、スマートで賢い生き方が褒め称えられる今だからこそ、敢えてハードボイルドな生き方に憧れてしまいます。