期待しすぎてはいけない。
なにがって、ワールドカップ予選のタジキスタン戦の大勝の試合だ。もともとシリアの違反で繰り上がってのチームだけに弱いことは分っていた。だから大量得点に沸くサポーターを尻目に、キャプテンの長谷部が「忘れるべき試合」だと言ったのは適切だと思う。
分っていながら頬が緩むのは、日本が長年願っていながらにして得られなかった長身のFWに目処が立ったことだ。現・甲府のハーフナー・マイク選手がそれだ。
前線に長身の点取り屋のFWがいることは、ただそれだけで強力な武器になる。とりわけ海外の長身で大柄なDFが揃うチームと対戦する時は、一人長身のFWがいるだけでマークが集中するので、その分他の選手にも得点の機会が格段に増える。
分っていながら、日本は長年、長身のFWを得ることが出来ずにいた。ただ背が高いだけなら数人いた。船越や平山などは190を超える身長で、高校サッカーで大活躍した期待の星であった。しかし、国際試合では通用しなかった。いや、国内のJリーグでさえ通用したとは言いがたい。
かろうじて通用したのは高木ぐらいでしかなかった。おそらく日本のサッカー界には、長身のFWを育成できるノウハウを持ったコーチがいなかったのだろう。
その点、ハーフナー選手は恵まれていた。日本に帰化したオランダ人で、日本代表のGKとしても活躍したハーフナー・ディドを父に持つ彼は、日本語はもちろん、オランダ語、英語も簡単ながら使える。身近なところに元・プロ選手の父がいたことの影響は大きい。
おそらく幼い時から、世界で活躍することを夢見ていたサッカー少年だったのだろう。しかも、幸か不幸か、日本の高校サッカーでは目だった実績を持たずにいたために、妙にスター扱いされて増長することがなかった。
おまけに当初はJ1では控えにさえ入れず、サテライト(二軍)での下積みが続いた。試合に渇望し、J2の甲府に移籍して、そこで実績を挙げての日本代表入りだから、甘やかされた平山等とは地力が違う。
とはいえ、U20の国際大会以降で目立った実績はない。だから当初は、日本代表入りを期待しつつも疑いの目を向けざるえなかった。しかし、ここでようやく実績を挙げた。
たとえ相手が弱小チームでも得点は得点。これでチームメイトからの信頼も増すし、なにより自身の自信にもつながる。その証拠に、Jリーグに戻ってからのほうが、その前よりも得点の機会が増えている。
でも、期待し過ぎてはいけない。弱小チームではあるが、タジキスタンは見事なほど紳士的なチームであった。汚い反則がほとんどない稀有なチームであった。だからこそ大勝できた。
この先、激しい試合が続く。ウズベキスタンも北朝鮮もホームでのゲームは絶対負けられないとの気迫をもって戦ってくる。岡崎や香川だけでは予選は乗り切れない。本田の復帰もおぼつかないことを思えば、ここで長身FWであるハーフナー選手に期待したくなる。
問題は、お馬鹿な日本のマスコミが、ハーフナーをスター扱いして増長させてしまうことだ。これが一番心配だ。彼はまだまだ成長途上の期待の若手選手に過ぎない。
どうか、厳しくも優しい目で成長を見守って欲しいものだ。