大人の良識なんてクソくらえ。
私は十代の頃、本気でそう思っていた。欧米文学からプロレタリア文学まで濫読していたが、日本の純文学には結構失望していた。
男女の別れをめそめそ描いたり、戦争の悲劇をなよなよと嘆くだけで、未来に向けての力強いメッセージとは無縁であった。
だからこそ、私は良識ある大人たちが眉をひそめるSFやファンタジーものを熱心に読んでいた。そこには、若い感性が惹き付けられるなにかがあったと思う。
現在、かつてのSFやファンタジーものと同じ位置にあるのが、ライトノベルと称される特異な分野だと思う。漫画チックなイラストが目を引くので、書店で目にした方も多いと思う。
ただ、手にとってみた人、とりわけ大人は少ないと思う。漫画の単行本かと思えるようなカラフルな表紙画は、いい年の大人が手にするのは、いささか後ろめたい。
大きな黒目のどんぐり眼でにっこりと笑う小娘のイラスト画を見てしまうと、おたく向けの専門書物なのかと勘ぐりたくなる。
ライトノベルにとって、イラストは大切なものだ。このイラストあってのライトノベルだと断じても良いほどの価値がある。そして、このイラストゆえに良識ある(と自負している)大人たちから敬遠されてしまう。
子供の頃の朝日ソノラマ文庫から始まり、大人になった今でも読んでいる私からすると、少々残念な気がしてならない。率直に言って、小説として駄作も少なくない。イラストの力にたよったと評されても仕方の無い力量不足のものも、けっこうあると思う。
それでも時々、ドキッとするほどの快作に出会えることもある。表題の作品は、その代表ともいえる。
一応、SFの部類に入れていいと思うが、ホラーの匂いも漂う。どこにでもいそうな学生たちの噂に上る、謎のブギーポップ(不気味な泡)を巡る物語は、ライトノベルの世界で金字塔を建てたといっていい。
今の若者が何に憧れているのか、今の社会をどう思っているのか、それがライトノベルを読むと分る。本を読まなくなったとされる若者たちだが、ライトノベルの売上は良識在る大人たちが眉をひそめるほどの数字となっている。
私は必ずしも共感している訳ではないのだが、若者たちの心に潜む不安を見事に書き表していることは認めざるえませんね。だからこそ、本作は若者たちに爆発的に売れたのだと思います。