真相は、ぼんやりとしたベールの影に隠れているが、そこにあることだけは分っている。
そのベールを一枚ずつ、ゆっくりと剥がしていく。それにともない、少しずつ全貌がみえてくる。あの時、何が起こったのか、何故おこったのか。
その最後のベールがめくれた時、目の前に呈示された驚愕の真相に驚く快感。これこそがトマス・クックのミステリーの真髄だ。
この快感を再び味わいたくて、手に取ったのが表題の作品だ。
愛ゆえに起きた犯罪なのだろう。思春期に入った若者が抱く愛は、輝くほどに純粋ではあるが、その輝きは不安定で、ちょっとしたことで、いとも容易に揺らいでしまう。
人生における最初の輝かしい凱歌を挙げるのが思春期ならば、最も暗く深い澱みにはまるのも思春期の特徴なのだろう。その記憶は、何事をもってしても拭いがたく、それが未来への架け橋になることもあれば、生涯付いて回る重石になることもある。
ほんの鼻先にあった輝かしい愛が、するりと手を抜けたとき、恐ろしい結末が待ち受けている。知っていたはずの結末ではあるが、最後の最後で主人公さえ驚愕させる真の理由が明らかになったとき、その残酷さに読者は何を思うだろう。
多分、読み手が男か、女かで受ける印象は異なると思う。私は卑劣さを憎む一方で、その状況で放った何気ない一言は、私とて口にしないと断言できない苦しさも感じざる得なかった。
愛されない苦しみは、憎まれる苦しみに勝ることがある。クックの最高傑作とは言わないが、上位にランクされることは間違いない傑作です。機会がありましたら是非、ご賞味ください。