以前から不思議で仕方なかったのが、アメリカの大企業の経営者の報酬が異常に高額であることだった。
何故、あれほどの高額報酬なのか、私にはさっぱり理解できなかった。それどころか、日本の経営者の報酬が低すぎるのだとの識者の意見さえ出る始末である。本当に適正な報酬なのか、私にはさっぱり判断できなかった。
その疑問に対して、多数のアメリカ企業の株主の立場から告発したのが表題の書だ。
まず驚かされたのは、アメリカの経営者(CEO)は業績に連動して報酬が決まるわけではない実態だった。そんなことがあるのかと疑問に思ったが、どうやら本当らしい。
まず利益をひねり出す。一番手っ取り早いのは従業員の解雇だ。生産拠点を人件費の安い国に移して、利益を出す。また自分の報酬については、外部の報酬査定コンサルタントを雇って、高額査定を出させる。
利益が少なければ、企業年金基金の予定利率を釣り上げて利益を捻出する。こうして見かけ上の好決算を演出したうえで、自分の意のままになる取締役会で承認させてしまう。
その結果、アメリカの繁栄を支えた中産階級は没落し、生産拠点の海外移転により街はスラム化した。みせかけの好決算は一時的に株価を吊り上げるが、いずれはばれて下落する。
CEOらに非常識な高額報酬が支払われた結果、株主への配当は大きく減る一方だ。また繰り返されるM&Aにより企業は肥大するが、結果的に企業価値は下落し、株主への配当は減るばかり。
CEOを選ぶのは株主の委任を受けた取締役会であるはず。いったい、株主の意見はどうなったのだ?!
その実態を告発したのが表題の書であり、読んでみて驚くことばかり。アメリカ企業の実態を詳細に述べたものだけに、正直とっつきにくい部分が多いが、苦労して読むだけの価値はあった。
株式会社の真のオーナーは株主であることが虚構と化し、経営者が独裁者として企業の利益を奪い去る現状を嘆く著者は、倫理の大切さを主張する。
金儲けが悪いのではないく、倫理亡き金儲けが悪いのだとの主張は、アメリカの伝統的倫理観に基づくものだけに、いささか同意しにくいが、言わんとするとことは良く分る。
わずか1割に満たぬ超富裕層が、アメリカの富みの過半を独占する異様な社会は、やはり歪んだものなのだろう。それを自由な競争の結果だと抗弁するのは無理がある。
率直にいって著者の株主の正当な権利回帰こそが、アメリカ企業を健全化させるとの主張には違和感を感じる。だが、アメリカの多くのマスメディアが切り込まずにいた、無能化した株主の実態を告発した書は読むに値する良書だと思います。興味がありましたら是非どうぞ。