怖い事件だと思う。私でも自白させられた可能性は高いと思った。
遠隔操作を可能とするPCウィルスを使ったメールによる脅迫等の行為で、数名の無実の人間が有罪に追い込まれていた。TBSに真の犯人と思われる人物からの通報があったからこそ、冤罪だと判明した。
冤罪事件で警察がこれほど迅速に自らの非を認めることは極めて珍しい。つまり、それだけ警察においても衝撃的な事件であったのだろう。警察が最新のIT犯罪に疎いことが良く分かる事件でもあった。
警察の捜査の不十分さを指弾する声もあるようだが、私はそれほど非難する気にはなれない。従来の捜査手法からいって、有罪と認めるに足りる証拠があったので、それ以上の捜査を省いたのであろうことは容易に想像が付く。そもそも、それを狙った犯罪でもある。
だが、私が今回の事件で容認しえないのは、検察の調書の取り方、いや、ねつ造のやり口だ。
警察が容疑者を脅かして自白に追い込むことは従来から指摘されていることだ。とにかく自白偏重主義であり、そのためなら何でもやると云われている。不安に陥れ、寝不足に追い込み思考力を減退させて、最後は優しげに(これが堪える)語りかけて自白に追いやる。日本の警察の伝統的手法である。
多分、私だって無実でも、有罪だと認める自白に追い込まれるだろうと思う。
あげくに、今回の事件では調書にもっともらしい事件の動機までねつ造されている有様だ。無実の人間を有罪に追い込むだけでなく、その犯行動機までご丁寧にもねつ造してみせるのだから、呆れてものが言えない。
私が忙しい最中に読んだニュースでは、今回の冤罪を認めるにあたり一番抵抗したのが検察官だという。減点主義で人事考課される役人が、失態を認めるのを厭う傾向が強いのは分かるが、これほど明確な冤罪事件では、自らの保身のみを考えた醜い行為だと断じたい。
正義の番人たる検察官の矜持など、まるで感じない醜悪なふるまいに嫌悪を禁じ得ないぞ。
役人というもののは、奇妙な考え方が染みついている。役所のやったことに間違いがあったと認めると、それは国家の威信を損なうことだと考えて、間違いそのものをなかったことにして事を済ませる悪習がある。
間違いを認めるのではなく、間違いをなかったことにして、何もせずに押し隠す。これは警察や検察だけでなく、ありとあらゆる官庁に蔓延している。官庁ばかりでなく、巨大企業、名門企業などにも散見する悪習である。
今回の事件で警察が、真犯人の策にはまり無実の者を逮捕したことは失態以外のなにものでもない。だが、その反省を活かして今後の捜査に活かされるなら、それはそれで評価したいし、そうあって欲しい。
だが、私は疑問を禁じ得ない。もし、今回の事件の真犯人がTBSに連絡してこなかったら、いったいどうなっていたのだろう。無実の者が冤罪で罪に服するだけでなく、不十分な捜査が今後も横行し、自白が強要され、動機までもがねつ造される慣行が引き続き行われていたのではないか。
本当に怖い事件であると思う。