ヌマンタの書斎

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プロレスってさ 輪島大士

2012-11-13 13:47:00 | スポーツ

まだプロレス入りする前に、喧嘩三昧であった前田日明が「怖くて手が出せなかった」と白状するほど迫力があったのが、当時の横綱・輪島であったという。
実は身長は前田のほうが高い。だが、身体の厚みが違った。空手家というより、喧嘩屋であった前田が恐れたのも無理はない。というより、その強さに感づいて避けた勝負勘を褒めたい。

そのくらい輪島は強かった。角界初の学生横綱であり、その破天荒な性格から批判されることも多かったが、後に黄金の左と呼ばれた下手投げは絶品。上手投げのガチンコ横綱・北の湖との名勝負は迫力満点であった。

引退後は部屋を継いだが、借金騒動を起こしての廃業。このままTVタレントにでもなるのかと思っていたら、突然のプロレス入り。しかも、ジャイアント馬場の全日本プロレスだった。これには驚いた。

だが、果たして成功するのだろうか。

怪我で土俵を降りた男が、受け身が重要なプロレスを演じることが出来るのか。まして40を目前に控えてのプロレス入りである。私はかなり疑わしく思っていた。

その予想は当たり、実にしょっぱいプロレスラーとなってしまった。

打たれ強さは間違いない。また絵になる表情の出来る男でもあった。だが、致命的に試合が作れなかった。試合を演じることが、不器用すぎて出来なかった。

はっきり言って、腹立たしかった。

私はプロレスも好きだが、相撲だって好きだった。あの横綱・輪島の強さを知っていた。それだけに、だらしないプロレスラー・輪島が許せなかった。

おそらく失敗した理由は、年齢もさることながら、相撲を捨てきれなかった覚悟の浅さだと思う。

相撲出身でプロレス入りした者は多い。力道山もそうだったし、業師として名高い吉村や、ラッシャー木村、天龍など成功者も多い。派手さはないが、実力者が多いのが特徴だった。打たれ強く、力強いのが相撲出身者の強みだった。

しかし、輪島はダメだった。なにがダメかといえば、相撲を捨てきれなかった。プロレスラーの動きを取り入れようとしていたが、中途半端であった。寝技を嫌がるだけでなく、寝技から逃げるのも下手だった。

そのダメレスラーであった輪島に一番腹を立てていたのが、同じ角界出身の天龍だった。かろうじて幕内に入る程度の相撲取りであった天龍にとって、本物の横綱の惨めな姿は自己否定に等しい。

だから天龍は、試合で輪島を苛め抜いた。倒れてへたり込む輪島に、情け容赦のない蹴りを叩きこみ、あげくにリングの外へ蹴り出した。まるでゴミ扱いであった。

後にインタビューで天龍は、あれは愛のしごきだなんて言っていたが、嘘だと思う。あれは苛めと迫害であったと思うな。許せなかったんだと思うよ。

あり得ない想定だが、相撲の土俵で天龍と輪島が対戦したのなら、結果は火を見るよりも明らかであったと思う。それくらい輪島は強かった。しかし、若くして角界を去り、プロレスラーとして必死の再出発を切った天龍には、プロレスに殉じる覚悟があった。

その覚悟が輪島にはなかった。その差が、あの苛めに現れていたと思う。

人生の再出発は難しい。名の知れた大企業でさえ経営危機に陥り、リストラされた中高年の起業が目立つ。だが、よくよく覚悟を決めて再出発して欲しい。過去を捨てる覚悟なくして、新たな再出発は成功しない。

私は夢破れて、挫折して、尊厳をなくした中高年をみたくない。あれは見ているだけで苦痛なんですよ。

コメント
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