21世紀の日本を考える上で、重要となるべき国がいくつかある。
資源大国である南アフリカとオーストラリアは分かり易いと思う。またシナに匹敵するかもしれない消費市場の可能性を持つインドネシア、マレーシア、ヴェトナム、タイ、フィリピンらのアセアン諸国も理解しやすい。
だが、もう一つ、どうしても欠かせないのがインドだ。日本人にとって、欧米はもちろんシナよりも理解しづらい悠久の歴史を誇る大国インド。六億を超える人口を抱えるだけでなく、民主主義国家でもあるインド。
0(ゼロ)を発見した数学大国であり、科学の分野における貢献は少なくないが、カースト制度を保持し続けて、国内の貧困問題に悩まされ続ける大国でもある。
御存じの方も多いと思うが、今や日本人の国民食と言ってもおかしくないカレーは、インドのカレーとは別物。しかも、インドは地域によりカレーも多種多様であり、それどころか言語さえ一様でない複雑怪奇の国。
それでも無視しえない重要な国であるのがインド。何故なら東アジアにおいて唯一、シナに対抗し得る大国であるからだ。
実際、シナとインドの間にはチベットを挟んで微妙な国境問題が横たわっている。米ソの二極対立が国際外交の軸であった20世紀において、非同盟諸国としてシナとインドは手を握ったことはあったが、所詮はうたかたの夢。
この両国はここ半世紀、常に国境において対峙し、時には武力紛争まで起こしてきた。現在も、シナはアメリカ、ロシアと並んでインドを潜在的敵対国として警戒する。人口13億のシナにとっても、人口6億のインドは無視しえない存在力をもつ。
ただ、イギリスのかつての植民地であり、アメリカのIT産業界のパートナー的存在でありながら、伝統的に西側先進国とは距離を置いてきた国でもある。西欧の近代民主主義にも完全に染まることはなく、さりてとシナの中華思想とは別個の路を死守する孤高の大国でもある。
21世紀の日本においては、この孤高にして老獪なインドとの円滑な関係を持つことが重要になると私はみている。実際、アメリカは対シナ包囲網の一環としてのインドを捉えており、直接の外交関係改善はもちろん、同盟国(軍事的従属国)日本を介しての外交戦略を展開している。
地政学的にみても、石油タンカーの通り道であるインド洋、アフリカの資源の輸入路でもあるインド洋に強い影響力を持つインドとの関係を円滑にすることは、日本の安全保障にも大きく寄与するはずなのだ。
だが、一方で分かりづらく、理解しがたいのが悠久の歴史を生きるインド人。日本のカレーと、インドのカリーのように似ているようで、まるで違う。そんな戸惑いと困惑があるがゆえに、多くの日本人にとって馴染みづらい国でもある。
その理解の一助になりそうなのが表題の本。日本に赴任したインド人エリートによる見聞記のかたちをとっており、インド人の視点からの日本論が物珍しい。
ただし、あらかじめ断っておくと、おそらくこの本の著者はインド人のシャルマ氏ではないと思われる。これは末メとなっている山田氏の作ではないかと私は考えている。いわばインド人版イザヤ・ペンダサン(山本七平)の可能性が高い。
事実、この本のなかで山田氏自ら加筆修正を加えていることを明示している。山田氏はルポライターとしてインドものの著作をいくつも出しているので、インドに対して相当な見識があるのだろう。またシャルマ氏のように来日して、日本文化に直に触れたインド人との交流もあったのだろうと思う。
でも、この本は私が読む限り、おそらく末ナはない。文体のリズムというか、末烽フに避けられぬ文章の硬さが、ほとんど感じられないのだ。おそらく自身の経験と、幾人ものインタビューなどの蓄積により書かれたものだと推測できる。
だとしても、インド及びインド人を理解する上で参考になる著作であることは間違いない。おそらくインド人自身が書いたものより読みやすく、また日本人には理解しやすいのは確かだと思う。
結論的に云えば、インドに対して見識のある日本人が書いた、日本人論として読むのが一番正しい理解だと思います。機会がありましたら、どうぞ。