ヌマンタの書斎

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野望円舞曲10(完結) 荻野目悠樹

2014-02-04 12:06:00 | 

残念ながら傑作とは言い難い。

遅筆で悪名高い田中芳樹が原案を出し、それを若手の作家が小説化したのが表題の作品であり、遂には10巻を数えてようやく完結した。完結に至らぬ作品が数多ある田中芳樹に比して、荻野目氏の勤勉さを讃えたいのだが、問題はその中身だ。

もともとこの作品ははるか未来、銀河の一角で経済の中核を担う商業星間国家と、銀河の覇権を狙う帝国との争いをベースにしている。商業国家の元首のお転婆娘は、投機的為替取引で得た経済力をもって父を打倒し、そのうえで野望の塊である帝国の宰相に立ち向かう破天荒なストーリーである。

このヒロインの魅力なくして成り立たない話ではあるのだが、その点が弱い。何故に弱くなったのかと云えば、登場人物が多すぎてヒロインの印象が薄れてしまっているからだ。

原案の田中芳樹といえば、登場人物が100人を超える銀河英雄伝説が有名だが、この通称・銀英伝が凄いのは一人一人の登場人物の造形が優れていて、物語に多彩さと深みを与え、その上で主人公の魅力を減じることなく作品を完成させたことだ。

とりわけ主人公ラインハルトに嫌われつつも正論を堂々と吐く部下と、ライバルのヤンから嫌悪されつつも守らざるを得ない立場で暗躍する悪徳政治家の存在感は凄い。更に付け加えるなら、ヤンの先輩で後方勤務の達人の官僚が物語の背景をしっかりと支えている。このような多彩な人物を出しながら、それでいて主役の存在感を確保するあたり、田中芳樹の力量の高さだと思う。

この銀英伝に比すと、どうしてもこの作品の脇役たちの存在感は薄い。しかも薄くとも多いので、それが却って主役の存在感までも薄くさせてしまっている。それが残念なところである。

私はこの作品以外にも荻野目氏の作品を読んでいるが、概ね主人公とその相手方の絡みを中心にしたものが多く、この方が得意なのだと思う。しかし、多くの登場人物を取り上げる田中芳樹に引っ張られたのか、この作品は脇役が多すぎて、それが作品にマイナスの影響を与えてしまっているのだ。

率直に言って、多人数を登場させても物語の魅力を減じることのない田中芳樹は、むしろ例外的であると思う。いや、田中作品でも銀英伝が凄まじく例外的なのであって、他の長編は登場人物を大幅に減らしている。してみると、銀英伝こそが例外中の例外なのだろう。

野望円舞曲は10巻を数える大作であり、その舞台設定からして、どうしても銀英伝との対比が避けられぬ運命にある。そのことが最大の不幸でもある。ただ、今回は9巻から少し時間が経っているばかりでなく、最初の一巻からも時間がたち過ぎている。

一度、一巻から一気読みすると、少し印象が変わるかもしれない。だからいつか再読してみるつもりだ。いつ・・・それが最大の問題だわな。

コメント
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