ヌマンタの書斎

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サン・カルロの対決 A・J・クィネル

2014-02-17 14:01:00 | 

ラングレーの空調の効いた快適なオフィス、常に糊付けがしっかりしたワイシャツにアイロンが効いたスーツ、剃り残しなしの髭剃りに、磨き抜かれた革靴に慣れたエリート官僚にとって不潔な環境ほど耐えがたいものはない。

赴任したばかりの中米のアメリカ大使の地位は、本来快適なオフィスが保証された現役最後の仕事となるはずであった。だが突如起こった革命と、その混乱に乗じて大使館内に入り込んできた革命軍と云う名の薄汚い狂信者どもにより、惨めな人質の屈辱を味わう羽目に陥った。

でもそれは始まりに過ぎなかった。対共産主義の分析官として長年敵対してきた相手である、キューバの秘密情報機関の尋問官の姿を目にした時から、本当の屈辱が始まった。パンツ一枚の裸体にされ、白人が嫌がる現地の粗食のみを食わされ、バケツに糞尿垂れ流し、藁敷きの布団を寝床にされる屈辱。

肉体を痛めつけるのではなく、心を痛め付けるプロの拷問担当者にとって、このアメリカの外交官こそ長年絞り上げたいと願っていた獲物であった。心の壁を崩し、プライドを崩壊させ、惨めに怯えさせ、最後には屈服させる。そのためなら何でもやってやる。

かくして二人のプロが、拷問者とその獲物として対決することになる。

物語の大半は、この二人のプロの心理戦であり、終盤に至って雪崩が崩壊するが如き電撃戦となる。まさに冒険小説の王道である。この作品が優れているのは、対決する二人のプロフェッショナルの心理が上手く描かれていることが大きい。

キューバの情報機関の尋問官による拷問的心理尋問と、それにプロとして答える捕虜のアメリカ大使の対決は、暴力的というよりも芸術的でさえある。やがて訪れる破局の後でさえ、この二人の心理対決は深い印象を残す。

この二人のプロの対決と、救出に向かうアメリカ軍の出撃直前こそが、この小説の山場となる。その意味でエンディングは帳尻合わせに過ぎず、予定された結末でもある。それでも不満が残らないのは、山場の盛り上りが見事に描かれているからだろう。

冒険小説が好きだったら、是非とも手に取るべき一冊ですよ。

コメント
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