愛しいからこそ、憎たらしい。
好きだからこそ、嫌いになれる。
気になる人だけど、気に入られている訳でもない。
家族だからこそ離れられないけど、家族であっても分かり合える訳ではない。
傷つけるから加害者だけど、傷つくのが被害者だけな訳ではない。
こんな文章を書き連ねるのが得意なのが若者から圧倒的な人気を誇る西尾維新である。以前にも書いたが、私はこれほど癖のある文章を書く人を知らない。
同時に、これほど惹かれながら、これほど反発を覚える登場人物を出してくる作家を他に知らない。
とにかく不思議な作家である。ライトノベルの作家でも屈指の人気作家ではあるが、だからといってその文体がライトな訳ではない。
さりとて、その文体が重厚な訳では決してない。むしろ過剰に饒舌であり、その文章の長さに反比例して、的確な描写からは遠い文でもある。
イラストレーターに恵まれているようで、そのイラスト抜きにして、これほどの人気を得たとは思えない。それでも作家として、その文章に魅力があるのも事実であり、むしろイラストとの相乗効果がプラスになっているあたり、ライトノベル作家の理想でもある。
正直、頻繁に読みたい作家ではないが、たまに急に読みたくなるのも確かなのだ。まったくもって、不思議な作家である。