早い、安い、美味いが牛丼の売り文句であったはずだ。
ところがだ、先週末忙しくて帰宅が大幅に遅くなったので、止む無く駅前の牛丼屋で晩飯を頂いた。何度か利用している店であり、特段不満もない。しかし、その晩はいささか事情が違ったようだ。
遅い時間ではあったが、かなり店は混んでいた。私がカウンターに座っても、なかなか注文を取りに来ない。数分後に来たのが、中年というよりも高齢者に片足突っ込んでいるようなオジサンであった。
よく観察すると、厨房には30台前後と思われる女性スタッフが一人で、カウンター業務はそのオジサンが担当していた。女性はかなり手慣れているようだが、オジサンはどうみても初心者で、マニュアル通りに仕事をこなすのが精一杯に思えた。
あの店の規模ならば、厨房に2人、カウンターに2人は欲しい。店内はけっこう混んでいたが、皆事情を察してか、文句も言わずに黙って待っていた。ちなみに、そのオジサン、決してトロい訳ではなく、あの多忙な最中にミスも少ないのだが、如何せん接客に馴れていないのがバレバレであった。
おそらく他業種からの転職であろう。私が吉野家でバイトしていた高校生の頃ならば、まず採用されることは無かった人だと思う。そもそも、この時間帯ならば、若い大学生がバイトの主力であったはずだ。
しかし、店で働いているのは女性と、そのオジサンの二人だけ。24時になれば、交代の人が来ると思うが、それにしてもこの時間帯に二人はキツイ。おそらく店内で待たされている客の大半が、同様な感想を持っていたと思う。
これが今の日本の現実だ。東証株価はバブル崩壊後最高値に近づいているが、日常生活の端々に異常な光景が垣間見える。牛丼屋だって度々バイトの時給を上げているが、募集をかけても若い人は来ない。
牛丼屋だけではない。多くの飲食店が同様の悩みを抱えている。少子化が既に社会問題となっている。でも、気が付いている人も少なくないと思うが、実際には仕事をしていない、しようとしない若い人が増えていることも事実だ。
ニートだが、プー太郎だが知らないが、身を粉にして働くのを厭い、楽で稼げる仕事ばかり求めている。FX投資や、ビットコイン投資のような簡単な投資の増加が、この働かない若者たちを増やす一因になっている。
誰だって楽をしたい、沢山お金を稼ぎたい。
それは分かる。分かるけど、若い時にしか出来ない事って沢山ある。若い時に身体で覚えておいたノウハウは、年を重ねても身体に刻まれている。正直、私は接客業に向いているとは思わないが、やろうと思えばできる程度の経験は積んでいる。
若い時に、かなり過酷な労働をしているおかげで、仕事の手の抜き方、端折り方などを覚えている。どんな修羅場になっても、ある程度は対応できると思っている。この余裕が仕事に充実をもたらしている。
ブラック企業も確かにあるだろうが、若い頃に厳しい仕事を経験しておくことは、決して無駄ではないと思う。件の牛丼屋のオジサンも、おそらく飲食業は初めてだろうが、愚痴も云わず、黙々と仕事をするあたり、きっと若い頃は相当辛い経験をしているのだろう。
だからこそ、娘といってもおかしくないほどの若い女性スタッフの指示に、厭な顔もみせずに淡々と従っていたのだろう。仕事に対する覚悟が違う。あの時間に牛丼屋で食事をしようなんて客は、みんな長時間仕事をしての帰路であろう。だからこそ、普段よりも大幅に配膳が遅れても、文句も言わずに待っていたのだと思う。
キツイ仕事を厭う今どきの若い子に、同じことは出来ないだろうなぁと思いながら、少しくたびれたオジサンの仕事ぶりをみていた。ようやく来た定食を食べながら、少々さびしい気持ちになりましたよ。