平成の怪物と云われた松坂が、今期は中日の選手として契約したらしい。
この三年間、ソフトバンクでの一軍出場は一試合のみ。それも、決して芳しい結果ではなかった。年齢も37であり、引退してコーチ就任を打診したソフトバンクのほうがまともな判断だと思う。
しかし、高校野球でのノーヒットノーラン、西武での毎年の二桁勝利、そしてアメリカでの活躍。なによりWBCでの熱闘と栄光に飾られた彼の野球人生が、このまま消え去ることを許せなかったのであろう。
だが世間の評価は厳しい。なんといっても、この三年あまり実績が乏しい、乏し過ぎる。せいぜい最近、人気が落ちている中日の客寄せパンダだろうとの評が一番多いように思う。
実際、中日フロントはその程度の話題で満足なのかもしれない。即戦力として期待するには、あまりに不安要素が多過ぎるのもネックだ。
私は何度か、松坂の投球を生で観戦している。オープン戦ではあるが、ネット裏から見たこともある。唸る剛球というか、重さと速さ、切れを併せ持つ稀有な球を投げるピッチャーだと思っていた。
ただ、けっこう打たれるピッチャーでもある。理由は簡単で、強打者相手にかわす投球をしないからだ。特にホームランバッター相手だと、真っ向勝負を挑む傾向が強い。西武時代、監督やコーチ、キャッチャーから何度か厳しく指導されていたはずだが、アメリカに行ってもこの勝負したがる癖は、なかなかに抜けなかった。
それが魅力のピッチャ―であることも確かだ。凄まじく強靭なプライドの持ち主なのだろうと思っていた。二十代の頃の松坂は、ピッチングがノルと、どうしようもない投手であったと思う。
しかし、その強烈な自負の強さが危ういとも思っていた。どんな名投手も、年齢による衰えから逃れることは出来ない。また怪我による衰えの危険性もある。松坂のピッチャーとしての矜持が、その投球の幅を狭めているのではないかと危ぶんでいた。
案の定、アメリカで怪我をしてから、その投球は第一線で通用するものではなくなっていた。剛速球投手としてのプライドが、彼を一軍から追いやった。
もちろん松坂も相当な努力をしていたはずだ。二十代の頃よりも一回り大きくなった身体は、トレーニングの成果であろう。ただ、身体の切れを失っていた。走り込みの量が足りず、明らかに太り過ぎであった。
だから日本球界に復帰して、二軍の試合に登場しても、かつての実力は発揮できず、その勝負癖も抜けず、散々打たれる始末であった。だから、ソフトバンクでの一軍での投球は、わずかに一試合のみ。
でも、少し彼を擁護するならば、ソフトバンクは現在プロ球団屈指の投手陣を誇る強豪である。特に若手に良い投手が揃っている。既に衰えのみえた松坂にチャンスは少なかったはずだ。
云っちゃ悪いが、ソフトバンクでは無理でも、中日の投手陣のなかになら割って入ることは可能かもしれない。かつては中日も、分厚い層を誇る投手王国であった時代もあったのだが、近年その面影はない。(岩瀬、どうするの?)
おそらく、中日が最後の球団になる可能性は高い。決して松坂を侮辱する気はないが、彼の最後の投球は、全力で投げて、それを打たれてのの引退決意である気がする。いや、そうあって欲しい。
勝負の世界は、ある意味残酷な世界でもある。しっかりと体を作って、見事な散りざまを見せて欲しいと思います。