この本を読むのに、これほど時間がかかるとは思わなかった。
時間がかかったのは、この本を読み進める度に、懐かしくも嫌な思い出が甦るからだ。
多少個人差はあるとは思うが、人の人生のなかで最も恥ずかしく思い出される時期があるとしたら、それは十代前半ではないかと思う。思春期に入り、身体が成長し、子供のままではいられなくなる時期でもある。
そして自意識が肥大化し、そのことを自覚できずに周囲との軋轢を生み出す時期でもある。そして何よりも異性への関心が高まり、独りよがりな恋情に身を焦がす時期でもある。
思い出すだけで、自分の愚かさに身をよじりたくなるほど恥ずかしい時期でもある。あァ、厭だ。もし、人生をやり直せるとしたら、まず一番にこの時期の自分をぶん殴りたい。本気でそう思う。
そんな私の恥ずかしい記憶を呼び起こしてしまったのが表題の作品である。
郷里で妻と娘に囲まれながら、診療所の医師として近隣の尊敬を集める主人公が抱えた心の闇。その真相はページをめくるごとに、少しずつ、少しずつ姿を現してくる。
しかし最後に露呈する真実に読者は驚愕するしかない。
トマス・H・ハリスの記憶三部作のなかでも最も重く、最もキツイ作品ではないかと思う。それにしても、たかだか3百ページあまりの本を読むのに三週間かかるとは、自分でも呆れてしまいます。
多分、この本は再読しないと思うけど、決して忘れることはないとも思います。