ヌマンタの書斎

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不動産市況の歪み

2018-01-18 15:54:00 | 経済・金融・税制

やはり歪んでいるように思う。

随分と報道されており、また自身の近所を見回しても空き家が増えているのが、高齢化社会を迎えた日本の現状だ。

人口が減少する以上、空き家が増えるのは必然だ。空き家が増える以上、不動産価格は下がるのが自然な流れだと思うが、そうではないのが日本である。

相続税の基礎控除が下がって以降、相続税の試算をして欲しいとの要望が増えている。また、相続後に空き家になった不動産の運用、売却などの相談も増えている。そのせいで、不動産相場には敏感にならざるを得ない。

評価という仕事は、相続(贈与も含む)の場合、相続税法の財産基本通達に基づく。いわゆる路線価により評価することになる。この路線価という評価法は、基本時価の8掛だとされている。

この時価は、その評価の対象となる不動産の所在地周辺の売買実例を元に算定されている。だが、不動産実務に長く携わる方ならご承知のとおり、路線価は必ずしも実勢売買価格とは一致しない。

ところが妙な言い様ではあるが、最近私の評価した金額と、実際の売買価格との差異が縮小されてきたことに気が付いた。この仕事に就いて以来、私の悩みの一つは、税法上の評価額と実際の売買価格とが違い過ぎることであった。だから、その差異が縮小されていることに違和感を禁じ得ない。

不思議に思っていたので、年末に少し詳細に分析してみると意外なことが分かった。税法上の評価額と、実際の売買価格の差が少ないものは、ほぼ全てが不動産業者が買い取ったものであった。

その一方、税法上の評価額と、実際の売買価格の差が大きいものは個人間売買のような不動産業者を介在させないものであった。実務家として、自分の評価した金額と、実際の売買価格の差が大きいことには、忸怩たるものがある。でも、もし自分がこの不動産を買うとしたらと考えると、評価額よりも、その売買価格の方が納得ができるのも確かであった。

根拠となるデーターが絶対的に不足しているのではあるが、どうも不動産の相場は、高く維持しておきたい側、すなわち不動産業者、銀行などにより意図的に高めに設定されている気がしてならない。

不動産業者は売買価格が高い方が、仲介手数料が高く取れる。また銀行にとっては、融資先の不動産担保価値は高いに越したことがない。また地方自治体にとって固定資産税等の税収は、不動産価格が高い方が増えるため、口には出さねど高値を支持している。

意外なことに、不動産の所有者も高い固定資産税に文句を言いつもも、所有する不動産の価額が高いことを誇らしげに思っていることが少なくない。日本人の土地神話(土地は値下げしない)は、案外とこの不動産価額の高騰を喜ぶ気性に支えられているのかもしれない。

しかし、最近は少しづつ変化を感じる。まず、土地の所有に拘らない人が増えてきている。特にマンション住まいに馴れている人は、将来建て替えなどの負担が出てくること、生活の変化に応じて居宅も変化させたいなどの理由から、気軽に引越しできる賃貸を望む。一生涯同じ場所に、住む気がないのだろう。

また既に自分の生活拠点がある人は、相続などで親の住んでいた不動産を貰うよりも、キャッシュ(現金、預金)を欲しがる傾向が強い。賃貸に出す人もいるが、売却してしまうことも少なくない。

ただ、かつて自分たちが親と一緒に住んでいた思い出の実家を手放すことへの抵抗感も強い。もっとも、その想いは自分がそこへ引っ越すほど強くない。こうなると、その家は空き家になる。

不動産は単なる商品ではなく、思い入れが強く入る情緒的財産でもある。それゆえに、通常の需要と供給の関係で値段は決まらない。

率直に言って、不動産は既に供給過剰である。だから市場原理に従えばその値段は下がるはずだ。しかし、高値を望む人たちの存在と、情緒を重んじて論理的な行動を取れない人たちの存在があるが故に、その価格はなかなか下がらないのが実情だと思う。

それでも高齢化社会は待ったなしであり、日本の人口は減少傾向が強いことも事実である。都市部と地方ではかなり違ってくると思うが、いずれは不動産価格は下がると予想しています。

コメント
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