反米でなにがいけないのか。
それが分かっていない人は、第三次世界大戦だと空騒ぎする。アメリカによるスレイマニ防衛司令長官の爆殺に対し、イランがアメリカに対する報復宣言をした件で、戦争だァと騒ぐ人がいる。
歴史をまるで理解していない。まァ、そのような愚論を口にする人は、概ね話し合い至上主義であり、みんな仲良くすれば良いと信じ込んでいる。だからこそ、イスラムの複雑な気持ちを理解しえない。
人類の文明は、長い間オリエントの地で栄えた。欧米が文明の最高位の位置に就いたのは18世紀後半のことであり、それまではオリエントこそが人類の中心的な場所であった。
まァ、ユーラシア大陸東部の大帝国シナと、インド亜大陸の文明の独自性は認めるが、現在の中東と呼ばれる地域こそが最も文明の栄えた場所である。そしてヨーロッパが産業革命を起こす前までは、このオリエントの地はイスラムの地でもあった。
イスラム教は西暦7世紀にアラビア半島で始まった宗教であり、ユダヤ教、キリスト教と同じ神を奉じているが、最新の宗教として人類史に燦然と輝く。イスラム教徒からみれば、ユダヤ教もキリスト教も古いものであり、イスラムこそが最善にして最強の宗教であるはずであった。
だが産業革命により、鉄砲や大砲といった大量殺傷兵器を大量に量産できたヨーロッパによりオリエントの地は蹂躙された。近代という名の最新の文明を擁する西欧に、イスラム社会は圧倒されてしまった。
この屈辱感は断じて忘れることは出来ない。
しかし、生きていくためにその最新の文明たる近代を学ぶ必要は感じていた。中東の覇者であるトルコやペルシャ、エジプトなどは西欧に留学し、学び、なんとか近代化の第一歩を踏み出した。
だが20世紀も後半になると疑問が湧いてきた。本当に西欧の近代文明は、イスラムを幸せにするのか?
石油ショックに端を発するイスラムの逆襲の根底には、西欧文明への根深い反発がある。だが中東の地に住む人々の意識は複雑だ。大半がアラブ系であるが、肝心のアラブ系国家が信用できない。
一番頼りになるはずのエジプトは、アメリカの仲介の元、イスラエルとの緊張緩和を選んだ。イラクやUAE、クウェート、レバノンは西欧と縁が切れない。さりととシリアのようにロシアの世話になるのも嫌だ。
その溢れんばかりの原油埋蔵量を誇ったサウジは、スンニ派のなかでも異端の宗派であり、新興の王族であるサウジ家は信頼がない。そうなると、中東の地に権威の空白が生まれてしまった。
この空白を狙っているのが、かつての支配者であるトルコとペルシャ(イラン)である。原住民たるアラブの大衆の気持ちは複雑である。トルコに戻って欲しいわけでもなく、シーア派のイランへの不信感は拭えない。
サウジは相変わらず、憎きアメリカとの友好関係を崩す気配はない。トルコも西欧と付かず離れずである。
だからこそ、イランは反アメリカを旗印に挙げざるを得ない。イランは実際にはカタールなどを通じて、中東のイスラム諸国に深く入り込んでいる。アラブの大衆が大嫌いなアメリカに逆らえない自国政府よりも、反米を高らかに謳うイランに肩入れした気持ちを抑えられない。
イランにとって反米姿勢は絶対に必要なものである。ただし本格的に戦争する気はない。だから、ロシアやシナが関わってこない限り、第三次世界大戦はあり得ない。
徒に戦争の危機を口にする、平和論者が如何に愚かであるか、よく分かろうというものだ。