この監督で、これはないだろうと思い込むのは、むしろ偏見なのだろう。
チャン・イーモウ監督といえば90年代に「活きる」や「あの子を探して」で欧米でも高い評価を得た名監督である。私はヴィデオでの鑑賞だが、これは映画館でがっつりと観たかったと後悔するほどの内容であった。
以来、幾つもの大作、名作を作ってきた名監督だけに、表題の映画に対する期待も大きかった。しかし、シナ本国はいざ知らず、欧米では大コケしたおはご存じの通り。特に莫大な宣伝費をかけたアメリカでは7000万ドルの大赤字である。
そんな予備知識はあったのですが、CS放送で観た表題の作品は、怪獣大好きな私からすると十分楽しめる内容でした。あのイーモウ監督だと認識してしまうから失望するのであって、香港あたりの若手監督が作ったとすれば、少なくても失望することはないのではと思うのです。
実際、巨大な長城に群がる怪獣たちと、それと戦うシナの戦士たちのアクション場面は、日本の怪獣ものや欧米のものとも違う個性ある映像だったと思い、私は十分楽しめました。
まァ、欧米のゾンビと、シナのキョンシーの違いとして捉えれば、このシナ版怪獣も楽しいものです。人間たちのドラマ?知りません、あたしゃ怪獣が暴れちゃえば、それで満足なのです。
ただし、一点文句があるとしたら、シナの長城はあれほど巨大ではありません。あれは、北方の騎馬民族の侵入を防ぐためのもので、馬の進行を阻むだけの高さがあれば、土塁でも良いのです。
春秋戦国期に作られた長城の多くは、ただの土塁の壁に過ぎません。北京郊外の有名観光スポットとして知られている日干し煉瓦を積み重ねた立派な長城なんて、明代以降に主要都市周辺だけに作られたものですから。
ただの土塁でも、馬が飛びこせなければ、それで十分なのです。それどころか、要は短時間でも足止めできれば、それで十分に守りを固める準備が出来ます。騎馬民族の長所は、馬の機動力を活用した速攻ですから、それを鈍らせる手段としての長城なのです。
この土塁を活用して、匈奴の侵入を食い止め、罠にはめて撃退したのは、戦国末期の趙の名将・李牧です。悲劇的な生涯を終えた李牧ですが、この対騎馬民族戦法を確立したが故に、彼は今も名将として讃えられているのです。
しかし、まァ、この映画、あの世の李牧将軍が見たら、なんていうでしょうかねぇ・・・