私が十代の頃だが、その頃の密かな愛読書は週刊プレイボーイ誌であった。
もちろん目当ては麗しい女性のグラビアなのだが、掲載されている漫画もけっこう楽しみにしていた。その一つが表題の作品である。
日本におけるボクシングの開拓者である渡辺勇次郎をモデルにした漫画であった。ただし、主役の海渡勇次郎は、実際の渡辺氏とは大いに異なる生き方をしている。
海渡は捕鯨の町で生まれ育ち、遠くアラスカの地のエスキモーの元へ修行にやらされている。そこで出会った白人ボクサーにボクシングを教わり、やがてアメリカに渡り、若き日のカポネやベーブルースと出会い、黒人たちに助けられてボクサーとなり、世界チャンピオンと戦う。
更に帰国する途上で空手の船越義元と出会い、東条英機の求めに応じて白人の兵士と異種格闘技戦までする羽目に陥る。まさに破天荒な生き方が若き日の私の脳裏に深く刻まれた。
原作の小池一夫もよくぞ、ここまで風呂敷を広げたものだ。実在の渡辺氏は、語学の学習で渡米し、現地で白人の若者のボクシングで倒され、一念発起してボクシングを学ぼうとする。しかし当時のアメリカでは日本人排斥運動の最中であり、ジムに入れさせてもらえない。
しかし仲良くなった黒人の紹介で黒人トレーナーが主宰するジムに入ってのボクシング修行。試合をこなし遂には州のチャンピオンにもなった。実話でも十分ドラマティックだと思うが、そこはプロの原作者の小池氏が辣腕を奮っての大活劇と変貌している。
私はけっこうな傑作だと思っているが、なにせ連載されていたのが読者層が若い男性に限定される週刊プレイボーイ誌だけに、この作品は隠れた逸品扱いである。
そこが悔しい。漫画喫茶などで見かけたら是非とも手に取って欲しい。なかなか読みごたえありますよ。