とても不思議なのだが、日本人は現代のシナを評価するとなると、おかしくなる。
端的に言って極論に走りがちに思えてならない。例えば日中国交回復時の日経新聞の中国礼賛がそれだ。これは当時の日経社長の肝煎りであったらしいが、とくなく、なにがなんでも日本は中国の経済発展に寄与せねばならぬと決めつけていた。
だから当時の新聞記事などを読むと中国を絶賛する記事で溢れている。もっとも中国には泥棒はいないと署名記事を書いた某有名記者は、その翌日に取材道具一式を盗まれて外紙に笑いものにされていた。でも、その事件を日経が報じることはなかった。
当時、小室直樹が中国を訪れて、その各地の企業を視察して経理方法が単式簿記であることに気が付き、これでは適切な財務報告は出来ないので、複式簿記へ変更すべきだと主張した。
しかし、当時の新聞、TVはそのことを記事にすることを躊躇った。おかげで訳の分からん財務報告書が作成され、合弁などでシナに投資した企業を困惑させた。結果的に、当時の日本企業の対シナ投資はことごとく失敗に終わっている。
その一方で真逆のベクトルで評価をしたがる方も多い。曰く「早晩、シナは分裂し内戦が勃発する」。曰く「急激に発展し格差の広がったシナでは内側から崩壊する」といった具合である。
急激に発展し、長いことGDP世界第二位の座に安住していた日本を蹴り落とし、アメリカに次ぐGDP世界第二位の座にシナが就くと、後者の意見が徐々に増えてきている。(嫉妬かなァ?)
シナの歴代王朝を見てみると、三代続いた帝国は概ね長続きする。だから私は現在シナを支配する共産党政権は長続きすると予測している。でも近年、なにか事件が発生する度に、シナは崩壊するとか、分裂するとかの予測が湧き出てくることに閉口している。
希望と予測を混同するなよな。
その点、表題の著者は私の看るところ、比較的中立公正にシナを看ていると思う。東大を出て通産省に入ったエリート官僚なのだが、躍進するシナに惹かれて役所を辞め、民間の立場でシナの経済成長に関わろうとした実務家の顔も持つ。
私が感心したのは、官僚出身者には珍しく自らの判断の間違いを率直に認めていることだ。その上で、官僚らしく北京政府の打ち出した政策を詳しく分析して、その内容を解説している。
私はわりと熱心なチャイナ・ウォッチャーだと自負しているが、北京政府の政策を読んで、その内容を分析するといった基本的な手法を採用している対中国の専門家は数少ないと考えている。
もちろん政府系のシンクタンクや、外務省はその基本的な手法を取っているに違いないが、その結論はなかなか表に出てこない。その意味で貴重な見解だと思う。
私は日頃から、シナは法治国家ではなく人治国家だと考えているし、コネがなによりも重要な社会である前近代的国家だとさえ思っている。だからといって、北京政府が公式に打ち出している政策を文章により分析することに意味がないとは思わない。ただ、私にはその技量はないが故に、このような書籍は重要だと思う。
この本が出てから5年余り。外れている予測もあるが、大筋ではよく当てていると思う。いささか難解な解説も多いが、興味がある方は是非ご一読を。