暖冬だと思わぬ降雪があることがある。
先週の日曜日の朝の降雪に驚いた人は多いと思います。なにせ前日までは、春の装いで十分な暖かな日が続いていましたから。でも私にとって降雪は、ほぼ予測とおりでした。
種を明かせば、事前に高層天気図を見ていたからです。通常、TVや新聞、ネットに掲載される天気図は地上天気図です。地上を基準に気圧を測り、気圧の変化に応じた図面を作成します。
この地上天気図だけでは、週末の雪を予測することは難しいはず。しかし気象庁の予報官や気象予報士が、堂々週末の雪を予報するってことは、なにか別の根拠があるはず。それはおそらく高層天気図だと思い、私も確認してみただけです。
高層天気図は気象ゾンデを飛ばして、高層(概ね5000メートル上空)での気圧と大気温度から作成されます。私は大学生の頃、日本山岳協会の登山者教室で、飯田先生の観天望気と高層天気図の講習を受けていたので、今でもある程度は読めるのです。
ただ高層天気図は局所的な気象予測には不向き。むしろ大局的な予報に向いています。先週水曜日の段階で、大陸から相当な寒気団が、週末に日本列島にかかることが分かったので、これに西からの低気圧がぶつかれば、大雪の可能性が高いことは容易に予測できました。
日曜日の早朝、予測は当たったなァと思いながらも、思い出すのは大学の卒業式の日のことでした。
あの日も、大雪の後でした。雪が降るのが分かっていたのですが、なにせ3月も最終週であり、既に桜もほころんでいましたから、大雪を予想していた人は少なかった模様。
私は大の式典嫌いですが、形式としての必要性は認めていたし、それを喜ぶ人たちがいることも分かっていたので、前日から準備をしていました。準備といっても、車のタイヤをノーマルから冬用のスパイクタイヤに替えただけです。
だから卒業式の朝、雪に慌てることはなかったのですが、その一方もの凄く忙しい一日になりました。まずは、部の同期のA嬢の家に行き、大学まで送ってやる。これは卒業式後のコンパの幹事をやっていた私が、多忙にかまけてサボっていたのを助けてもらったので、お詫びにしたこと。いや、あの時は助かった。
その後、部室でスーツに着替えて卒業式に出席。一息つく暇もなく、ゼミの慰労会に出席、二次会を断って次は一年時のクラスのコンパに出席。そして最後は部のコンパに出席と多忙な一日でした。
ちなみに2つのコンパは、いずれも私が幹事でしたが、さすがに参加者全員への連絡等は無理なのでA嬢に手伝ってもらっていた。足元の悪い雪のなかでの移動くらい、私が担当したのも当然の扱いでした。(多分、Aはちょっと怒っていたはず)
だから、その日、雪に埋もれながらも桜が芽吹く美しい場面を見ている余裕はまったくない。まったくないけど、何故か思い出せます。実は私、雪と桜の組み合わせは滅多に遭遇していません。
私が大学に入っての最初の部の5月合宿で、桜と残雪の美しい風景を見ています。まァ、シゴかれてフラフラの状態でしたが、しっかりと脳裏に刻まれています。そして、まさか大学最後の行事といってより卒業コンパ(いや、卒業式だろう)の日も、桜と雪の組み合わせなのだから不思議なものです。
あれから35年ほど経ちましたが、先日の雪は、既に満開の桜に降りかかる不思議な光景でした。それを窓から眺めながら、過ぎ去った歳月の速さに呆然としたものです。
多分ですけど、次に私が降雪と桜の花の組み合わせを見ることは、まずないように思います。そんな長生きできそうもないですから。だから、日曜日、当初は仕事に行くつもりでしたが、止めてしまいました。代わりに近所を散歩しつつ、桜と降雪の風景を脳裏に刻んだものです。
きっと、これが最後の記憶になるでしょう。でも後20年は生きるつもりですけどね。