この顔見かけたら、悪魔でさえ教会に逃げ込むと云われたプロレスラー、それがオックス・ベイカーだ。
1メートル90の長身と逞しい上半身も凄いが、なにより怖いのはその容貌だ。ぶっとい眉と鋭い眼光、おまけに腹の底から唸るようなドスの効いた低音の声で吼えるように話す。こりゃ、怖い。
それだけじゃない。オックス・ベイカーはリング上で二人を殺している札付きの暴漢なのだ。嘘じゃないぞ、そのぶっとい腕を振り回して、相手の胸の心臓に上に叩きつける。この心臓潰しの必殺パンチで、相手を死に至らしめたのは実話だ。
その暴れっぷりから、プロレス会場を騒乱に陥れて、警察どころか州軍を出動させた暴動事件の主役でもある。アメリカにおけるプロレス興行を一変させた有名な事件でもある。
日本にも何度も来て、主に国際プロレスで悪役レスラーとして活躍している。あの頑丈なラッシャー木村も、オックス・ベイカーに椅子を乱打されて、足を骨折している。まさに折り紙つきの悪役レスラーだった。
でもね、私たち子供は知っていた。オックス・ベイカーが悪役を演じていることを。入場するときも、リング外で暴れる時も、決して子供や老人には当たらないよう気配りしていたのを知っていた。会場の外で握手を求めると、あのおっかない顔に満面の笑顔を浮かべて、やさしく手を握ってくれてたことを知っていた。
本当は、荒くれ者を演じているだけの優しい大男であった。リングで死んだとされる二人は、いずれも控室で持病の心臓疾患からの心臓麻痺だったし、ラッシャー木村の骨折は偶発的な事故だった。
あの有名な暴動事件も、きっかけは気取り屋のジョニー・パワーズで、ベイカー自身は、後にインタビューで騒動に巻き込まれて、ナイフを持った暴徒に追い掛け回されただけだと苦笑いしていた。
その気さくな性格は、プロレスのリングを降りても発揮され、TVのバラエティ番組にレギュラー出演したり、映画に出演したりと全米をまたにかけた人気者であった。
日本では、国際プロレスでは楽しくやっていたが、新日本プロレスとは上手くいかず、その後はほとんど来日していないので、あまり認知度がないのが残念でならない。
見た目はすごく浮「のですが、私ら悪ガキの目はごまかせない。本当はイイ人、それがオックス・ベイカーでした。
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