ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「ケイン号の叛乱」 ハーマン・ウォーク

2006-06-12 14:15:46 | 
太平洋戦争は、さまざまな悲劇を生んだ。兵站の意識が薄かった旧・日本軍は、敵の攻撃による戦死者よりも食料不足からの病死、餓死による戦死者が後を絶たなかった。一方、アメリカ軍、とりわけ海軍は、軍艦の遭難事故による被害が意外なほど多い。

アメリカ海軍は、軍艦の設計に際し大西洋を念頭においていたため、台風の発生地点であり、世界屈指の荒波を有する西太平洋の厳しさを知らなかったことが、遭難事故多発の原因であったそうです。密閉型の航空機格納庫を有する日本の空母と異なり、開放型の格納庫であったアメリカ空母は、嵐に遭遇するたびに、夥しい浸水に見舞われ作戦行動に支障をきたしたそうです。また小型の軍艦は、台風に襲われると、まともに航行できず、あわてて港に逃げ込んでいたらしい。

そんな小型の軍艦で起こった悲劇を描いたのが、表題の作品。もちろんフィクションですが、著者の綿密な取材から生まれた作品らしく、アメリカではずいぶん話題に上がった作品です。どうも、ユダヤ人問題が絡んでいるらしく、けっこう物議をかもしたらしい。

何事もない平穏な状況ならば、話のわかるいい上司だとしても、命の危険がある緊急事態では、むしろ全体を危うくする無能な指揮官を迎えた兵隊は悲惨です。敵と戦って死ぬならともかく、無能な上司により遭難死するなんて、誰だって真っ平でしょう。

しかし、軍隊は鉄の規律で構成される。上司の命令は絶対、それが軍隊。生き残るために、厳罰を受ける覚悟をもって叛乱を起こし、無事帰還したケイン号の乗員たちの運命は如何に。

私の好きな海洋冒険小説ですが、あまり人気がなく、例によって早川書房がほったらかしにしたため、現在は多分古本屋でしか入手できないと思います。最近は海洋冒険ものはブームのようなので、是非とも復刊して欲しい作品です。

ちなみに映画化されていて、そっちの方が有名みたいです。なかなか良い映画らしいので、時間があったら私もVD(あるいはDVDかな)を観て見たいと思っています。
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「心という名の贈り物」 ドナ・ウイリアムス

2006-06-11 13:45:15 | 
未知の世界を教えてくれる本に、子供の頃から引かれる傾向が強かった。

ファーブル昆虫記、シートンの動物もの。クストー艦長の深海探検、リヴィングストンの探検記。本はいつでも私を未知の世界に引き込んでくれた。

科学技術が進んだ今日にあってさえ、未知の領域が広がっているのが、実は人間の頭のなか。心の問題と言い換えてもいい。なかでも不思議であったのが、自閉症の人たち。同じ人間の形をしているにもかかわらず、その行動は不可解。なまじ外見が健常者と同じであるため、ことさら違和感が引き立つ。

その自閉症の当人が、自らの半生と、心のうちを書き綴ったのが前作「自閉症だった私へ」でした。この本が刊行されたときの、世界的な衝撃は今も語り草になっているほどです。私自身、自らの無知を恥じると同時に、このような心の内面を公表した著者の勇気に感動したものです。

表題の本は、その後のドナ・ウィリアムスの自立の日々を書き綴ったものです。かつての自分と同じような立場の自閉症の子供たちと接し、教師になることを目指し、本のプロモーションで世界を巡る。その過程で、自分と同じような自閉症の人々と出会い、共感し、変わっていく自分に畏れ、そして喜ぶドナの人生の、なんと芳醇なことでしょう。

まだまだ人生は、未知の驚きに満ちている。知識だけは豊富な私の未熟さを、たしなめ、謙虚さが必要なことを思い出させてくれる。自閉症を理解したなんて、とても言えないけれど、以前よりは寛容になれる気がします。

なお、表題の本は文庫版では「自閉症だった私へ Ⅱ」とタイトルを変えています。
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プロレスってさ 坂口征二

2006-06-10 15:45:33 | スポーツ
最近、TVのCM等で時々見かける、凛々しい顔つきのお兄ちゃんが、あの坂口征二の息子さんだと知って驚いた。

プロレスラー坂口征二、柔道日本一の実績を引っさげ、旧・日本プロレスにてデビュー。その後猪木の新日本プロレスに移り、長いこと中堅レスラーとして、また外人レスラーのお目付け番として活躍されたかたです。

195cmの長身と、柔道で鍛え上げた強靭な身体が魅力で、私は一時期猪木より強いのでは、と思っていたくらいです。当時年に一回だけ、坂口と猪木の60分3本勝負が行われていました。この試合が凄かった。中味がめちゃくちゃに濃い試合でした。豪腕無双な坂口の攻めを、受身の天才、猪木が受け切り返す。どちらが勝ったか、思い出せないほど強烈な試合をしていました。

この年に一度の勝負は、猪木がIWGPというイベントを始めた頃には中止されてました。今にして思うと、猪木が実力の衰えを感じたことが、中止の理由だった気がします。そう、猪木はIWGPを始める前の方が強かった。若い頃の猪木は受身が抜群に上手く、いくら坂口が攻めても、それを必ず切り返していた印象があります。

一方、坂口はIWGPの頃から裏方に回る姿勢を見せていた。人間的に実直だった坂口は、プロモーター筋からの信頼が厚く、専務だった新間寿と並んで運営面で新日本プロレスの全盛期を支えていたようです。

仕事としてのプロレスと割り切っていたはずの坂口でしたが、それだけに安易なプロレス否定には強烈な反感を示したものです。前田や佐山(タイガーマスク)、藤原、高田、山崎といった旧・UWF勢が新日本プロレスに戻ってきた時、彼らとのプロレスを拒否したのが坂口でした。

柔道日本一の坂口からすれば、格闘技志向のUWFでさえ、プロレスの亜流に過ぎないと見えたのでしょう。UWFのアンチ・プロレスの姿勢に一番反感を示した坂口は、戻ってきた前田たちとプロレスを演じることを拒否した。

藤原のアキレス腱固めを、いとも簡単に振りほどき、前田をリングロープに押し付けて何もさせず、軽量の高田、山崎らを振り飛ばして、見せ場を作ることさえ嫌がった。格闘技路線を売りにしていたUWF勢は、冷たく怒る坂口相手には何も出来なかった。

後年、引退した外人レスラーたちの手記を読むと、大半の外人レスラーは猪木よりも、坂口の強さを述べているものが多い。興行中に問題を起こした外人レスラーを処理する裏方の仕事をしていた坂口は、やはり本当の実力者だったようです。

ところで件の息子さん、坂口ケンジというそうですが、ありゃ美人の誉れの高かった奥様似ですね。親父と比べると線が細い。少なくともプロレス向きじゃないねえ~
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会社法4 なぜ会社に?

2006-06-09 09:32:00 | 経済・金融・税制
そもそも、なぜ会社を作るのか?

歴史的に考えれば、産業革命以降多額の資金を必要となった事業の母体として、会社という存在に多人数から資金を集め、有利な条件で市場経済で勝つことにメリットがあったはずです。多数の資本家から金を集め、それを事業に投入する有利さは、個人事業家に優るものでした。

更に所有(株主)と経営(会社)の分離により、所有者(株主)のリスクを当初投資額に留め(有限責任といいます)ることと、優秀な経営者を外部から迎え入れるシステムを設けたことで、従来の家族経営よりも進んだ事業展開を可能なさしめたことが、会社制度の優位性でした。

更に税制が、会社を優遇していたことも大きい。日本の場合、個人が儲ければ儲けるほど、高い税率になる累進課税制度でしたから、会社として法人税の一定税率で税額が計算されるほうが、税の負担は少なく済んだ。その結果、街の八百屋さんまでが会社を作り、節税に励むありさま。

その結果、日本は世界で最も中小法人の多い国となりました。ですが、かつて世界で一番高負担と言われた個人への累進課税も緩和され、収入、利益によっては個人の方が節税効果が大きい昨今です。

それでも、政府は会社を作りやすい環境を整えた。なぜか?

個人事業の場合、どうしても私生活上の出費と、業務遂行上の出費が混同しやすい。つまり、家事費と必要経費の区分が難しいのが現実です。しかし、会社形態にすることで、会社業務に関係ない出費は、出費の受益者への給与もしくは交際費課税として処理しやすくなる。

今後、少子高齢化社会を迎える日本では、社会の停滞による弊害を防ぐ意味でも、起業の容易さを整えておくことは、有益であると考えての会社法改正だと、私は考えています。

最低資本金制度の撤廃は、私個人としては否定的なのですが、起業の促進といった効果はある程度あると思います。

次は今回の会社法改正の、もう一つの目玉である会社の定款自治について書き記したいと思いますが、未だ勉強中なので今しばらく時間を頂きたいと思います。
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会社法3 資本金がマイナスでの起業って?

2006-06-08 09:32:50 | 経済・金融・税制
資本金1円以下でも会社が出来る。

どうゆうことかと言うと、従来資本金は株式の発行価格でした。しかし、今回の改正で資本金の計上は、払込価額から設立費用を控除してもよいとされました。会社を設立するためには、登記が必要になります。大体30万から50万程度かかります。

資本金1円で払い込んで会社を設立した場合、1円の資本金から設立費用をマイナスすると、純資産がマイナス表示されてしまいます。つまり資本金が0円となり、「その他の利益剰余金」がマイナス表示されるようになります。おかしな話ですが、法務省令を読むと、これも認めるとなっています。

こんな会社、信用できます?

今回の会社法改正は、起業を容易にして社会に活性化を促すことを目標としています。その意図や良し。されど、起業し、それを事業として継続するには金が要る。100万や200万程度の金なんぞ、あっという間に消えていく。それが実情です。業種にもよるでしょうが、最低でも500万は欲しい。金はいくらあってもいい、それが経営者の現実。

さらに言うなら、なぜ最初っから会社なのか。始めは個人として開業して、金をためて実績を上げてからの会社設立が、従来の王道でした。この方法は、今後も一番理想的なケースだと私は考えています。失敗してもリスクは少ないし、税金の負担も少なくて済みます。

最近本屋さんで立ち読みした本に、ある行政書士の方のものがありました。開業して数年で年商3000万円突破と、威勢のいいものでした。でも一読して唖然としました。この方、4年前の一円法人を認めた「新事業創出促進法」を活用して、多数の1円法人の設立業務で多くの手数料報酬を稼いだようです。

会計・税務の立場からすると、かならずしも法人による事業が良いとは限らないのが常識です。業種や利益率にもよりますが、収入なら2~3000万円、利益なら900万円程度なら、法人よりも個人のほうが有利です。しかも消費税を考えたら、最初の2ヵ年は個人でやり、3年目から法人にすれば、実質4年間消費税を払わずに済む。

私の事務所では、最低三年間の損益見通しなどの検討をした上で、会社でやるか個人でやるかを助言するようにしています。上記の行政書士の方は、おそらく知らずにやっていたのでしょう。無知ゆえのことで、悪気はないと思いますが、あまりにヒドイ。

起業すること、事業を運営していくことは、誰にでも出来るとは言い難いのが現実です。そして、どうしたって金は要ります。資本金1円が、本当に良い制度なのか、私には疑問に思えて仕方ありません。
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