
昨夜の雨にもかかわらず、気になっていた山桜はまだ散っていなかった。気品のあるコブシの白い花に代わって、クロモジ、あるいはそれに似た木が霧の中、手のひらに雨を受けるように白い花を咲かせていた。ダケカンバの芽吹きはもう少しかかるが、白樺は1千700メートルのこの辺りでも枝先に柔らかな緑色の葉が萌え出した。コナシも一昨日、昨日と好天に恵まれて、"性悪"の厄介な枝に小さな葉が目に付く。
1950年代から国の拡大造林政策とやらによって、日本各地で植林が盛んに行われるようになった。それも成長の早い落葉松、スギ、ヒノキなどの針葉樹が選ばれたため、この辺り一帯からもケヤキ、ナラ、クヌギ、ブナなどの天然木である広葉樹は姿を消した。里山の景観は一変して、すっかり味気なくなってしまった。
よくぞこれほどまでに植林に励んだものだと半ば感心し、半ば呆れるほど人工林ばかりの山が増え、日本の国土の7割を占める山林は、今やその半分が人工林だという。ここへも、そういった針葉樹が主役の森を来るのだが、山室の谷や池の平周辺には、それでもまだ広葉樹の天然木が残っていて、それらの木々がきょうのような雨の日であれ、新緑が朝日に映える好天の日であれ、未舗装の苦労の多い山道を上がって来る間に、どれほど目にも気分にも癒しのとなってくれることか。広葉樹は大木でなくても、それらが愛想のない針葉樹に混ざるだけで、森の相、、雰囲気はガラリと変わる。
昨今は輸入材が増え、先人の苦労の結晶である林針葉樹の人工林は手入れにも事欠き、すっかり行き場を失ったまま途方に暮れているとか。この頃になってようやく、皆伐や間伐した後、これまでのように植林を敢えてせずに、長い時間をかけてでも天然木が自然に育ってくるのを待つという試みも行われるようになったらしい。山地が木材の生産地であるという役目から変わろうとしている。治山や水源の涵養という目的は、それでも充分に果たせるだろう。
新緑の春、緑陰の夏、紅葉の秋、そして白い冬、森の姿を目の奥にまで沁み込ませながら12年、お蔭で倦まずにこれまでを来ることができた。森の実力に、深くふかく感謝している。
「大雨の恐れ」を怖れて本降りになるまで、昼を過ぎても第1牧区で電気牧柵の立ち上げをやっていた。帰り驚いたことに、牧場内で一番早く咲くヤマナシの花の蕾が、もうすぐに開きそうだ。ということは、コナシ(ズミ)も今年は6月を待てずに咲き出すことになる。中旬から20日ごろか。
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