Photo by Ebinademaru氏
気持ちの良い秋空の下、牛は去ったというのに気忙しい日が続いている。来週からはまた撮影の予定があり、機材搬入のため第3牧区にある林の中の作業道を、どのようにの整備をしたらよいか考えなければならない。ここでは機械化が進まず、昔ながらのツルハシ、スコップといった手作業がもっぱらであり、さらには「性悪女」の異名を与えてやった徒長し放題のコナシの枝打ちもある。
林の中には湧き水の出る場所があって、牛たちのために乏しい水を貯めておこうと幾つもの水場を設けてやったことがあった。何しろあのころは今よりか入牧頭数もずっと多く、牛たちは何十頭もの群を作り、晴天が続くと湧水の量が減るからわずかな水を奪い合い、すするように音を立て飲んでいた。
その様子を見れば牧守としては大いに気を揉み、何とかしてやらなければならないと策を練り、思案の末、水溜まりのような小さな池を作ることにした。この時も道具と言えばツルハシとスコップ、それに唯一の材料は丸太だった。
それらの水溜まりができてみると、遠くからだと小さな池のように見えて、あまり日の射さない湿った落葉松やダケカンバの林の中に思いがけない風景が生まれた。しばらくは気に入った場所として、頭数確認の合間によく立ち寄った時期もあった場所だ。
今年のいつだったか、その水場へ久しぶりに行ってみたことがあった。そしたら、丸太で囲むようにして作った池もどきはその形を留めることなく、地中から湧き出た細々とした湧水は好き勝手に幾つもの小さな流れとなって低い方へと向かい、さらに下方の湿地帯に消えていた。
牛を放牧していた時ならそんな状態を放置することはあり得ないが、今は牛に代わって何百頭もの鹿が我が物顔に振る舞う状況では、手を加えても仕方ないしする気にもならない。気になる牧柵も含め、荒れるに任せてしまっている。
青空は見えていても日は射さない。その方がこの季節らしく、より穏やかに感ずる。色付いた木々の葉もその方が映える。海老名出丸さん一行もいい秋を楽しみ、満足して帰っていった。
本日はこの辺で。