入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’21年「秋」(45)

2021年10月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今晩は。こんな山の牧にある小屋から、しかも夜中に、久しぶりに一筆いたします。その後久しくお会いしてませんし、消息も耳にしてませんが如何ですか。紅葉の時季には是非また訪れたいと仰っていましたが、そんなことはもう忘れてしまったでしょうか。
 
 暮れなずむ第1牧区から、貴方は黙ってゆっくりと西の山に落ちていく赤い夕陽を見ていましたね。あの時、何を思い、何を考えていたのでしょうか。現実の暮らしと、目の前に見えている壮麗な自然とのあまりに非情な乖離、そんなことを感じていたのではないでしょうか。風は落ち、物音は絶え、空が次第に闇の領域に入っていくのをじっと許しながら。
 本当に不思議です。自然は、誰よりも多くを語り、またじっくりと聞いてくれます。しかしそれは饒舌というのではなく、また押し付けがましくもありません。自然からの返答は、人の言葉に翻訳するのが難しいのですが、誠実さに欠けることはありません。そう思います。
 残照が消えかけ、空が溶暗されていく。その一瞬は儚く、それでいて永遠にも繋がる気きがします。まるでそう、10の33乗年ほどにも及ぶような。

 昨日里に帰ったとき、日よけの帽子は家に置いて毛糸の帽子を持って来ました。以前に、オーストラリア製だと自慢したら、貴方は大人が子供を見るような目で笑っていましたね。セーターやフリースも、羽毛服も、古着屋でも閉口しそうなシロモノになってしまいました。いたしかないことで、それらを身に付ける本人が、すっかりポキンポキの枯れ枝に似てきたのですから。
 いや、正確に言うなら、まだ生渇きです。幾つになっても人はそうだと思います。悟ったようなことを言ったり、分別を誇示したりするのは虚勢であり演技です。だから、と言ったらよいのかこんな詮のない、伝わるかどうか分からない気持ちまでも、架空の貴方に今夜は吐露したのです。強い酒のせいにしておいてください。
 夜が明けてきました。何卒お元気で。

 本日はこの辺で。
 
コメント
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