入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’23年「冬」(29)

2023年12月11日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 風はなく穏やかで、灰色の空の下に見えていた銀色の峰々は、穂高であれ、後立山であれ、かなりの凄みを見せていたというのに、冬枯れの野ずらは哭いていた。
 いつも目にする生き物の姿が消えてしまったせいだろうか、久しぶりの牧に、そんな殺風景な印象しか持てなかった。
 
 今回も芝平から荒れた山道を上った。第2堰堤を過ぎた所に通行止めの看板が、「わたくしたちは役目上通行止めにしますが、どうぞ勝手にお通りください」とでも言うように置かれていた。
 オオダオ(芝平峠)に出ると、千代田湖から「枯木の頭」に至る林道も、12月の20日過ぎまで予定していたはずの工事が終了したらしく、通子止めの標識はなくなっていた。わずかな距離でしかないのに、工事予定の期間がいい加減なのは今回だけでなく、いつものことだ。
 雪は「池の平」手前の大曲り、ついで焼き合わせを過ぎたばかりのやはり大曲り、そしてド日陰と3カ所ほど根雪になっていたが、通行に差し障るほどの量ではなかった。とにかくこの時季、通行止めの看板さえ出しておけばいい、ということなのだろう。
 
 牧場の北門を入って少し行った所で車を停め、そこに残しておいた一抱えほどの薪を積んだ。実生から群生した落葉松で、露天風呂の灯油と薪併用の釜に使えばいい燃料になる。
 来春に計画している道路沿いのコナシの枝打ちをあれこれと考えながら小屋に着いた。昼を少し回っていただろう。
 
 いつものように、小屋に入る前に、まず水源を見にいった。来る途中では水量が乏しくなった渓ばかり見てきたせいか、相変わらず豊富な水が流れ出ているのを目にして安心した。
 そして露天風呂の養生に異常はないか、キャンプ場全体に何か問題がないかを点検して、小屋に入った。
 
 今では里の暮らしにすっかり慣れたせいだろう、半年以上も過ごした部屋はさながら主のいない他人の部屋のようで、あまり長居をする気にはなれなかった。火を使うのを控え、湯を沸かすこともせず、それでも1時間ほどいただろうか。
 戸締りや、ネズミの餌になるような物をしまい忘れていないか確かめて、愛想を見せない小屋を辞すことにした。
 多分、荷揚げを兼ねて越年前にもう一度は来ることになると言い聞かせつつ、冬の山の侘しさを胸一杯に吸い込んだ。
 
 今週末から富士見のゴンドラの営業が再開される。本日はこの辺で。

 

 

 
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     ’23年「冬」(28)

2023年12月11日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 穏やかな冬の日、縁側に腰を下ろし日向ぼこをしていた。午前10時、この時間だと、天気が良ければ外の方が暖かい。ひと夏の威勢を放った雑草が今は枯れ果て、みすぼらしさが目に付いた。
 きょうは柿の木の一番高い枝先に1羽のムクドリが来ている。青空を背景に細い枝の上にまるで浮かぶようにみえるその姿は、あっちはモズだが、宮本武蔵の描いた有名な「古木鳴鵙(めいげき)図」を連想した。

 きょうの写真は散歩の途中、二つの集落を分かつ山付きの峠越えをした後で撮った伊那谷の風景である。ごく一部でしかなく、写真では分からないが、この伊那盆地を造り、今もその低部を流れる天竜川の堤防へ散歩の最後は下る。
 ここの夜景が気に入って、昨年までの冬ごもりは専ら夜間ばかり歩いていたが、畑や森、他所の集落の端などとはいえ、今の時代にそんな所を夜なよな歩いていたら不審者扱いされて警察にでも通報されると注意され、それで止めるようにした。

 散歩は気分転換であり、暇つぶしである。仕事柄、冬ごもりの間でも、歩きたいという単純な欲求が湧いてきて、それに従っている。
 また、年齢を重ねると、この程度の体力や気力ならまだ保持しているゾ、ということをどこかで確かめてみたくなる。自己診断に近い健康診断結果を得て安堵するようなものだ。
 頭の方は日常の中で嫌でも何かと気付かされるが、特に物をよく落とすようになり、万有引力の無慈悲さを嘆き、腹を立てることが増えてくる。それと、やはり時の経過を早く感ずるようになる。
 
 考えてみれば、われわれには殆ど「今」はない。過去か未来で、「今」はたった1秒すらもないだろう。そういう不思議な時間の中で、「今」の速さを少しでも抑制し、その一瞬に退屈してみたくなって「座る」ということを始めた。
 だから、何か高尚なことを考えようとか、精神によい影響を与えようかとか、そんな大それたことを考えて始めたわけではない。ただ、現在も一日もかかさずに続いているということは、「心のラジオ体操」くらいにはなっているのだと思う。
 時には気が乗らなくて中断したくなる日もあるが、しかしそれをしてしまうと、その悪い癖がついてしまうようで、とにかく1本の線香が燃え尽きるまでは続けるようにしている。
「心のラジオ体操」、冬ごもりの今、悪くない。

 これから入笠へ行く、本日はこの辺で。
 


 
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