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朝のうち家の中ではストーブを焚いていたというのに、外へ出てみたら意外に暖かくて驚いた。てっきり冬のような曇り空だと思っていたら薄い雲で、その雲を透かして柔らかな日の光が、天竜川の流れや土手を春めいた眺めに見せていた。
ほったらかしの庭にもイカリソウや、ハッカクレンの芽が出始めたようだ。これらの山野草は、信州で暮らすようになってから植えたものだから、十年以上になる。協力してくれる人がいたり、そこらへ買いに出掛けたりしてひと頃は四十種以上もあったが、いまではどれほど残っていることか。そんな草花のことも、春のほんの一時思い出してみるだけで、山に落葉松の芽が吹き、山桜が満開になるころには、里のことなどにはとても気が回らなくなってしまう。
結局は何もしないで終わるのだが山野草と同じく、一年の中でいまだけだろう、家や周囲を荒れ放題にしておいて何の手も打てない不出来な余裔として、ご先祖さまに対して申し訳なく思ったりするのも。
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現在も北の方にそういう人がいるが、禁固刑以上の受刑者は一定の期間、選挙に出馬することができない。ところが、当然と考える人もいるが、いわゆる戦犯とされた人々は国内法では犯罪者として扱われなかった。ために、まだBC級はもちろん、最後のA級戦犯が受刑・拘禁中であるにもかかわらず、一足先に出た人の中には、すでに政治活動を始めることもできた。BC級に科せられた人々を含めて、刑死した人たちとの計り知れない落差は、何と言ったらよいのか思い付く言葉もない。
ひるがえって、艶(なま)めかしい春の夕暮れ、このところやたらきな臭いニュースが飛び交うが、この国の今の平和をしみじみと実感する、清貧。