市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

1億5900万円の不正会計発覚でパワハラと隠蔽体質が露呈した東邦亜鉛の第三者調査報告書の書きぶり(3)

2015-08-11 08:35:00 | 東邦亜鉛カドミウム公害問題

■この夏、東芝の粉飾決算疑惑を巡って、「不適切会計」「不正会計」「第三者委員会」「利益水増し」「予算達成プレッシャー」「社長月例会議パワハラ」「監査法人」などという用語が飛び交いました。東芝問題では新日本有限責任監査法人の監査責任が問われていますが、今回の東邦亜鉛の不正会計では、幸い監査法人がしっかりしていたようで、東芝のような大規模な混乱を招く前に、不正会計が発覚しました。引き続き、東邦亜鉛の不正会計を巡る第三者委員会の調査報告を見て行きます。

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第2 当社資産の不正換金

1 事実の概要

(1)前提となる事実関係
ア Y社との取引の概要
(ア)鉛の圧延加工
 ソフトカーム事業部は、ソフトカームに使用する鉛板を製造するため、Y社に対し、原料となる鉛地金を支給し、鉛の圧延加工を委託していた。
 原料となる鉛地金は、契島製錬所からY社の工場に運搬され、Y社において管理保管されていた。
 Y社は、ソフトカーム事業部から依頼を受けると、当社から支給された鉛地金を使用して圧延加工を行い、ソフトカーム事業部から指示された送り先に出荷していた。
 Y社は、当社が預け入れた鉛地金の数量を管理し、毎月末頃、鉛板委託加工明細書を作成し、製品の出荷量、鉛地金の使用量及び残量等をソフトカーム事業部に報告していた。
 ただし、ソフトカーム事業部では、鉛板委託加工明細書を全て紛失しており、鉛板委託加工明細書については、Y社から開示を受けた一部しか確認することができなかった。

(イ)加工費の支払及び原料の支給
 当社は、鉛の圧延加工に対し、Y社に加工費を支払う。
 原料となる鉛地金は当社から無償で支給されるが、Bの前事業部長の代から、加工後の製品受入時に当社からY社へ原料支給額として売上を計上するのと同時に、Y社から当社へ同額の仕入を計上する経理処理が行なわれてきた。
 鉛地金に関する売掛金と買掛金は相殺されるため、当社とY社間で現実的な代金の授受は発生しないが、ソフトカーム事業部の見かけの売上を増やしたいがために、かかる経理処理が行なわれてきたことは、A及びB並びにソフトカーム事業部員の各ヒヤリングによって認められる。
 なお、このような売上と仕入の両建て訃上という経理処理は、平成27年3月決算において、当期分を一括して修正された。また、ソフトカーム事業部においてY社以外との間で、このような両建て計上が行われていないこと、これは当社の他の事業部においても同様であること、をそれぞれ確認した。

(ウ)鉛屑の使用
 当社は、当社資産の不正換金が判明する以前から、藤岡事業所において鉛屑が溜まると、Y社に運搬し、圧延加工のための原料として使用させていた。
 この場合、Y社は、受け入れた鉛屑を溶解し、当社から支給された鉛地金とともに圧延加工を行い、鉛板を製造した。
 Y社が鉛屑を受け入れた場合は、鉛板委託加工明細書に受け入れた鉛屑の数量を記載していた。なお、この場合、鉛屑は製品に加工されて当社に戻って来るため、Y社から当社に対し、対価が支払われることはなかった。

イ 棚卸資産業務記述書
 棚卸資産業務記述書においては、実地棚卸については、次のプロセスを経ることが記載されている。

<毎月末>

【契島製錬所・藤岡事業所】
  ①業務担当者は販売管理システム上の出荷データ及び仕入データから作成した「入出庫一覧表」を基に数量の差異がないか、毎月末現物確認を行う。
  ②差異が有る場合は、契島製錬所・藤岡事業所業務担当者の原因調査報告を元に、契島製錬所業務課長・藤岡事業所マイロン課長が業務担当者に必要な処理を実施することを指示し、ソフトカーム事業部業務責任者に報告する。
  ③ソフトカーム事業部業務担当者はその差異を「製品台帳」(エクセル)と照合し修正し、在庫数量の修正入力をする。

【営業倉庫】
  ①各営業倉庫は毎月末現物数量の確認を行い、「在庫報告書」を作成し、ソフトカーム事業部業務担当者へFAX送信する。

【ソフトカーム事業部】
  ①業務担当者は受信した「入出庫一覧表」上の在庫数量と「製品台帳」(エクセル)上の数量とを照合し差異を確認する。
  ②業務責任者はその差異を確認し、業務担当者へ在庫数量の修正を指示する。
  ③業務担当者は「製品台帳」(エクセル)へ在庫数量の修正入力をする。

<半期末>

【契島製錬所・藤岡事業所】
 ①業務担当者は販売管理システム上の出荷データ及び仕入データから作成した「入出庫一覧表」を基に数量の差異がないか、ソフトカーム業務担当者及び業務責任者と共に現物確認を行う。
  ②差異が有る場合は、契島製錬所・藤岡事業所業務担当者の原因調査報告を元に、ソフトカーム事業部業務責任者が業務担当者に必要な処理を実施することを指示する。
  ③ソフトカーム事業部業務担当者はその差異を「製品台帳パエクセル」と照合し修正し、在庫数量の修正入力をする。

【営業倉庫】
  ①各営業倉庫はソフトカーム業務担当者及び業務責任者と共に半期末現物数量の確認を行い、同時に「在庫報告書」を作成しソフトカーム事業部業務責任者の承認を得る。

【ソフトカーム事業部】
  ①業務担当者は現物確認から作成した「在庫報告書」上の在庫数量と「製品台帳」(エクセル)上の数量とを照合し差異を確認する。
  ②業務責任者はその差異を確認し、業務担当者へ在庫数量の修正を指示する。
  ③業務担当者は「製品台帳」(エクセル)へ在庫数量の修正入力をする。

(2)鉛屑及び鉛地金の換金及び使途
 A及びY社社長のヒヤリング並びに証憑書類によれば、次の事実が認められる。

ア 鉛屑等の換金及び使途
(ア)Aは、平成18年以降、平成26年11月までの間、藤岡事業所にて保管する鉛屑をY社に買い取らせ、代金として現金を受け取った。
 鉛屑はそのままでは原料として使用することができず、インゴット(鉛地金)に加工する必要があるため、Y社は、受け取った鉛屑を自ら溶解してインゴットに加工し、自家消費していた。
 鉛屑の価格は、Y社社長が買取時の鉛の相場を基準に単価を決定し、買取数量に単価を乗じて計算していたが、Y社は手数料として、買取数量に単価を乗じた金額の15%を差し引いていた。
(イ)Aは、鉛屑の他、換金価値を喪失し売物にならない長期滞留在庫である下記①ないし③の不良品をY社に送付のうえ②及び③を買い取らせ(①については、処分されずに現在もY社に保管されていることが確認されている)、下記④の不良品については、藤岡事業所のソフトカーム事業担当者に出荷登録しないようにと指示してX社に出荷させていたが、これらにより、帳簿上の残高と実地棚卸による残高に合計1,054,716円(内訳は下記のとおり)の差異が生じている。
 これは、棚卸資産の実際残高と帳簿残高の差額の一部を構成している。
                記
 ①Ca鉛シート、2,796kg:2,980,536円
 ②鉛テープXTL-4,600個:367,122円
 ③鉛テープXTL-5,500個:447,812円
 ④古い接着剤で張り合わせたXP5、21枚:239,782円

(ウ)Aが受け取った現金は1回あたり20万円~50万円であり、Aは、受け取った現金を封筒に入れて保管し、ソフトカーム事業部の飲食代やタクシー代に充てていた。
 ここでいう飲食代とは、ソフトカーム事業部員の飲食代であり、飲食時の支払のほか、ツケとして溜まった支払にも充てられていた。

イ 鉛地金の換金及び使途
 Aは、当初は鉛屑のみを換金していたが、次第に飲食代やタクシー代を鉛屑の代金だけで賄うことが困難になった。
 そこでAは、平成23年11月以降、当社が鉛板の委託加工のためにY社に預け入れていた鉛地金の一部についても、鉛屑と同様に買い取るようY社に持ちかけ、代金として現金を受け取るようになった。
 鉛地金は、鉛屑と異なりインゴットに加工することなく、そのまま原料として使用することができる。Y社は、買い取った鉛地金を委託加工の原料として自家消費することで、他からの仕入れを減らすことができる。前記鉛屑と同様、Y社は15%を手数料として差し引き、現金をAに渡していた。
 Aは、受け取った現金をソフトカーム事業部の飲食代やタクシー代に充てていた。

(3)他の関与者の有無
ア Bの関与
 ヒヤリングにおいて、Aは、Bの明示的又は黙示的な指示に従い、鉛屑の換金を行っていたと述べ、Y社社長や他のソフトカーム事業部員の中にもBの関与を示唆する者が複数存在するため、Bの指示の有無について、以下に検討する。

(ア)Aのヒヤリング
 まず、Aは、Bによる指示について次のとおり述べている。
  ・最初の一回目のみ、「Bから換金の明確な指示を受けた」と述べたが、二回目以降は、「Bから明確な指示はなかった」と述べた。
  ・Bからは換金を示唆する言動があるのみだったが、Bの意図を忖度して鉛屑のY社への運搬を手配し、Y社から現金を受け取っていた。
  ・鉛地金の換金は自分で思いついたものであり、Bは知らない。
  ・受け取った現金は、そのままBに渡すことはなく、A自身が飲食代やツケとして溜まった支払を行う他、Bから飲食代やタクシー代の支払に充てたいという要望があった場合に、都度、指示された金額を手渡していた。

(イ)Bのヒヤリング
 これに対しBは、次のとおり述べている。
  ・鉛屑の換金については一切知らなかった。
  ・鉛地金の換金についても一切知らなかったし、換金の方法すら見当がつかない。
  ・Aから飲食代やタクシー代を受け取ることはあったが、経費の精算である。
  ・飲食代やタクシー代は、交際費や交通費の予算の範囲内に収まっていた。予算を超過した場合は翌月以降に回しており、自腹を切ったこともある。

(ウ)Bによる指示の有無
 上記のとおりAとBの言い分は食い違っている。
 この点、Aの述べるBによる飲食の頻度及び金額等については、客観的な証憑が残されておらず、その存否を確定することができない。
 また、後述のとおり、本件では、合計約32,443,384円もの現金が授受されていると推察されるが、金額の多さからして、これがすべて飲食代やタクシー代に費消されたとは、にわかには信じがたい(銀座のバーやクラブで飲食していたことは認められるが、すべての店が必ずしも特定できず、その頻度及び金額も明らかではないから、かかる
 事実を過大に評価することはできない)。加えて、一部サンプリング調査をしたB作成の経費精算書によれば、経費による居酒屋での飲食やタクシー利用の事実が認められる。
 よって、Bが飲食代やタクシー代に充てるために換金を指示したというAの発言を直ちに信じることは困難である。
 さらに、Y社社長や他のソフトカーム事業部員がBの関与を示唆する理由は、①Aから聞いた、②Y社社長から聞いた、③AとBの主従関係に鑑みるとAが単独で実行できるはずがない、というものであり、いずれもBによる指示の存在を直接裏付けるものではない。
 なお、Bが藤岡事業所のソフトカーム事業担当者に鉛屑の引取を連絡するEメールは存在するものの、前述のとおり従前からY社に鉛屑を送り、原料として使用させていたことに鑑みると、当該Eメールが不正換金を目的とするものであったと認定することはできない。
 よって、Bによる指示があった可能性は否定できないが、Bによる指示があったと認定することは困難である。
 なお、Bはヒヤリングにおいて、迷惑を掛けたこと及びAへの監督不行届があったことの責任までは認めたが、当社資産の不正換金及び現金の取得については否認した。

イ その他の関与者の有無
 ヒヤリング及びアンケートのいずれにおいても、A及びB以外の関与者の存在をうかがわせる事情は顕出されなかった。

(4)換金された鉛屑及び鉛地金の数量及び額
ア 確認書の数量及び額
 確認書によれば、平成23年3月から平成26年10月までの間にAにより換金された鉛屑及び鉛地金の数量及び代金額の合計は、それぞれ下表のとおりである。ただし、A及びY社社長のヒヤリングによれば、下表の代金額はY社の手数料15%を差し引いた後の金額であるため、
 当該手数料分を加算した換金額の総額は合計27,223,372円(小数点以下四捨五入)となる。

           鉛屑     鉛地金    合計
 数量(kg)     103,927    76、770     180,697
 代金額(円)   13,297,585   9,842,281   23,139,866

 なお、数量は、藤岡事業所に保管されていた出荷案内書及びY社に保管されていた納品書をもとに集計したものであり、出荷案内書及び納品書は全ての取引について残されている訳ではない。
 また、単価については、時期により相場が変動するところ、一部の取引について保存されていたY社社長作成のメモをもとに類推したものであるため、数量及び代金額はいずれも概算である。

イ 出荷案内書と鉛板委託加工明細書の数量差による推計
 確認書に記載された数量及び代金額は、出荷案内書、納品書及びメモ等をもとに取引を再現した推計値である。
 そこで、当社において、出荷案内書及び鉛板委託加工明細書をもとに、平成22年12月から平成27年3月までの間に当社とY社間に生じた数量差を月毎に求め、当該数量差がAにより換金された数量であると
 仮定し、当時の鉛相場の単価を乗じて換金額の総額(Y社の手数料15%を控除する前の総額)を推計したところ、下表のとおりとなった。
 なお、平成22年11月以前の鉛板委託加工明細書が残されていないため、同年同月以前の期間については、試算することはできなかった。

          鉛屑      鉛地金     合計
 数量(kg)      99,707      76,911    176,618
 換金額(円)   18,584,105   13,859,279   32,443,384

 当該数量及び換金額も前記第2、1(4)アと同様に理論上の推計値という他はなく、当委員会において入手した証憑書類から、換金された鉛屑及び鉛地金の正確な数量及び換金額を明らかにすることは困難である。

(5)残金の不見当
 A及びソフトカーム事業部員に対するヒヤリングの他、Aから任意に開示されたA個人の預金通帳上における入金欄の記載の精査等の客観的資料及び分析によれば、AがY社から受け取った現金は、ソフトカーム事業部の飲食代とタクシー代に使用された可能性が認められるが、Aが受け取った現金のすべてが、実際にソフトカーム事業部の飲食代やタクシー代に充てられたのか、充てられたとしてその金額はいくらなのかについては、明らかではない。
 Aの机の中に大量の領収書が7,083,143円分保管されていたが、すべての飲食につき領収書をもらっていた訳ではないとのAの陳述や、タクシー代については乗車前に現金をBに渡すこともあったことからこれについての領収書はないこと、などを割り引いても、到底32,443,384円(*)に及ぶとは思えず、32,443,384円もの現金を、さほど高額でもない居酒屋等での飲食代やそのツケの支払にのみ充てたとは到底解されず(Bは、銀座のバーやクラブにY社社長には連れて行ってもらったが、自分たちだけではそれ程行っていないと述べている)、加えて入退院を繰り返していた妻の入院費や治療費についても、Aは生命保険からの一部金や実家からの援助で対処していたとも述べていることから、Aが別途、私的に流用もしくは隠匿している可能性を排除することは困難である。
 もし仮に、それだけの金額がAに渡っていないというのであれば、Y社にも相当の利益が滞留している可能性がある。
 (*)32,443,384円は、平成22年12月~平成27年3月の推計値であり、33,823,372円(Y社からの現金受け渡し実績についてに記載の6,600,000円:平成18年4月~平成23年1月十確認書に記載の27,223,372円:平成23年3月~平成26年10月)と金額的にも期間的にも相違しているが、当委員会としては、前者の金額を以下の①及び②の理由により損害額と推認すべきものと考える(ただし、平成22年12月より前については、Y社の受払記録が存在しないため、不正換金があったか否かについては不明である)。
  ①確認書やY社からの現金受け渡し実績については、記憶に基づいて作成されたものに過ぎず、客観的な裏付けに乏しい。
  ②これに対し、当社が出荷記録とY社の受払記録に基づき数量差により推計した数量及び金額は、より客観的な裏付け資料に基づいたものであり、より信憑性が高く、真実により近い数量及び金額と推認し得る。

(6)他の資産の不正換金及びY社以外での不正換金の有無
ア 他の資産の不正換金の有無
 ソフトカーム事業部では、鉛屑及び鉛地金以外にも換金価値を有する資産を有しているが、A、B及びY社社長に対するヒヤリング、ソフトカーム事業部員等へのヒヤリング及びアンケート並びに一部取引先へのアンケートからは、鉛屑、鉛地金及び鉛を含有する不良品(*)以外の資産の不正換金の事実は顕出されず、不正換金の可能性がある資産はこれらのみであった。
 (*)鉛を含有する不良品は、鉛部分を取り外す等して溶解すれば、鉛屑と同様に再利用することができる。当社では、本報告書で定義する鉛屑と鉛を含有する不良品とをあわせて、鉛屑と呼ぶことがある。

イ Y社以外での不正換金の有無
 藤岡事業所は、鉛屑を発送するに際し、手書きの出荷案内書を作成していたが、かかる出荷案内書の宛先がY社以外のものはなかったことから、藤岡事業所から鉛屑を送付していたのはY社のみであり、Y社以外での鉛屑の換金の事実はなかったものと認められる。
 また、当社は、Y社以外にも鉛地金の圧延加工を委託し、鉛地金を支給しているが、A、B、ソフトカーム事業部員等へのヒヤリング及びアンケート並びに取引先へのアンケートからは、Y社以外の委託先において、当社が預け入れている鉛地金の一部が不正に換金されている事実は顕出されなかった。
 ところで、Y社以外の委託先において、本件と同様の手口で、預け入れている鉛地金の一部を不正に換金することは不可能ではないが、現実的なリスクは限りなくゼロに近いと解される。
 なぜなら、鉛の処分には領収書の発行や身分証明書の提示等が必要となる上、鉛地金の不正換金をすれば、当社が預け入れている鉛地金の帳簿残高と実際残高とが一致せず、早晩に発覚する可能性が高い反面、Y社以外の委託先と当社との取引量は、委託先にとってその売上の平均10%程度であり、当社との取引を継続するために当社からの指示に従わざるを得ないという事情もないため、Y社以外の委託先がかかるリスクを冒してまで、不正換金の依頼を受ける合理的理由は見当たらないからである。
 これに対し、Y社は、その売上の70%を当社に依存する中小企業であり、当社に対し従属的立場にあったことから、Aの指示に直ちに逆らうことは極めて難しい関係にあったといえる。
 なお、Y社以外の委託先が鉛地金の一部を不正換金するのではなく、自家消費したこともないと解される。なぜなら、当社からの出荷記録に基づく委託先への預託数量と委託先から報告のあった在庫数量に委託先での消費数量を付加した数量との間には、差がないことが確認されているからである。

(7)棚卸資産の不―致の理由
 平成27年3月末時点の棚卸資産の帳簿残高と実際残高が一致していないが、その内訳は下表のとおりである。

                            (単位:千円)
 事業年度   第113期  第114期  第115期  第116期
  期末    H24.3.31  H25.3.31  H26.3.31  H27.3.31
 棚卸資産:
  帳簿残高   172,002   271,398   319,067   298,974
  実際残高   179,099   232,526   215,146   210,834
  差額     ▲7,097   38,872   103,920   88,140
                            (注1)
 不一致の理由:
  Y社による鉛屑及び鉛地金の換金
          9,165   18,499    30,347   31,766
  外注委託分過大計上(注2)・除去処理未了(注3)
         ▲16,262   20,373   73,573   52,339
  出荷登録なし    -      -      -    4,035
   合計    ▲7,097   38,872   103,920   88,140
  (注1)平成27年4月1日の実地棚卸時の差額115,000(千円)が88,140(千円)に変わった理由は、調査が進むたびに、その過程で誤りを見つけて随時修正したことによる。たとえば、当初は在庫として帳簿に含めていたものが、その後の精査の結果、在庫ではなく原価差額として売上原価に含めるべきものであると判明したものは、これを帳簿残高から外した。
  (注2)当社が委託先から委託した製品を受け入れる際は、原料代に委託先へ支払った加工費を付加した額を、製晶の受入金額(実際単価)として伝票処理しているのに対し、当社が客先へ当該委託した製品を売り上げる際に、売上原価として振り替える製品単価は、売価に予定原価率を乗じて算出した予定単価に基づいて伝票処理しており、この予定単価が実際単価よりも小さい単価であったことにより、帳簿残高が実際残高を上回る事態が発生した。
 また、原料も委託した製品も、ソフトカーム事業部に受け入れられてから、払い出される(売り上げられる)までの管理簿がなく、製品台帳も作成されていないため、外注委託分の原料や委託した製品の受け入れ、払い出し(売り上げ)、在庫数量が正確に把握されておらず、それによっても帳簿残高が実際残高よりも過大になっていた。
  (注3)製品が不良化した場合、―方で評価減して帳簿上から落とし、他方で原料として評価し計上すべきところ、それを怠っていたことにより、帳簿残高が実際残高を上回る事態が発生した。
 なお、外注委託分過大計上と除却処理未了との割合は、前者の方が多いとは言えるが、正確な内訳の割合を示すことは困難である。

2 原因及び背景事情

(1)簿外資産の管理ルールの不存在
 ソフトカームの原料となる鉛板を加工する際に生じる鉛屑は、簿外資産であり、帳簿上の資産として管理されていないうえ、品目や数量の記録等すら行われていなかったが、管理台帳のようなものを作成し、適切に管理していれば、不正処分を防ぐことはできたものと思われる。

(2)委託原料の在庫管理及び現場確認の不徹底(製品台帳の未作成)
 委託加工のために取引先に預け入れている鉛地金の在庫管理については、取引先からの在庫報告書にのみ依拠していたところに問題があり、当社側でも製品台帳を作成する他、定期的に現場確認をしていれば、在庫量を正しく認識できたものと思われる。

(3)棚卸資産業務記述書等の内部統制ルールの形骸化
 棚卸資産業務記述書では、藤岡事業所の業務担当者は、「入出庫一覧表」を基に数量の差異がないか、毎月末に現物確認を行うべきことが記載されているが、実際は、3月末と9月末の年2回しか、現物確認は行われていなかった。
 また、製品を出庫する際は、システム上出荷登録をしなければならないにもかかわらず、藤岡事業所のソフトカーム事業担当者は、Aの指示に従い出荷登録を行わずに出荷し(古い接着剤で張り合わせたXP5、21枚:239、782円)、報告を受けた上司もそれを了承し、帳簿残高と実際残高との不一致を許容した。

(4)飲食代及びタクシー代等の支払
ア 経費精算の窓口
 Aは、平成15年5月から平成26年12月までの間、ソフトカーム事業部の経費精算の窓口を担当していた。
 具体的には、各部員から受け取った精算書類を取りまとめ、事業部長の決裁印を受けたうえ、財務部に持参し、財務部から現金を受け取り、各部員に配分するという作業を行っていた。
 しかしながら、平成25年以降、各部員がAに経費の精算書類を渡しても、Aが財務部に精算書類を持参せず、精算金の支払が滞ることが多くなった。
 その理由としては、ソフトカーム事業部の飲食代やタクシー代が嵩み、精算金の額がソフトカーム事業部に割り当てられた予算の額を超過したため、Aは財務部に精算書類を持参することができなかったこと、Aが認めているとおり、Aが精算金を飲食代に流用していたことが挙げられる。
 そのため、ソフトカーム事業部の経費精算の窓口を担当していたAが、ソフトカーム事業部員の飲食代及びタクシー代等を支払う必要からも、当社資産の不正換金を行った可能性が否定できない。
 ちなみに、ソフトカーム事業部全体の交際費、事務打合費及び交通費の各月額予算は、それぞれ約30万円、約8万円及び約40万円であった。

イ Bの認識の有無
 Bは、ヒヤリングにおいて、ソフトカーム事業部の飲食代やタクシー代が溜まっていること、あるいは精算金の支払が滞っていることに気付かなかったと述べている。
 この点に関しAは、鉛屑又は鉛地金を不正に換金した現金で飲食代やタクシー代を支払っていたからBに精算書類を上げずに済んだ、飲食代やタクシー代の一部については補填して自らも支払っていた、とそれぞれ述べているが、精算書類が上がってこないのであれば、Bとしても飲食代やタクシー代が溜まっていることに気付かなかったとしても不自然ではない。
 とはいえ、B自身が飲食しタクシーを利用しているため、飲食代やタクシー代が溜まっていることは容易に想像がつくのではないかとも解されるが、飲食の場所は、主として支払額が合計1万円にも満たない安価な居酒屋等であったから、Bがそれらに気付かなかったとしても、あながち不合理とはいえない。

(5)Bのパワハラ
 Aは、当社資産の不正換金を行った原因として、換金につきBから明示的ないし黙示的な指示があったと示唆し、BのパワハラのためにBに従わざるを得なかったと述べている。
 Bによる飲食が過剰な程度であったのか、換金された現金がすべて飲食代等に充てられたのかについては明らかではないものの、第1、2(4)で述べたとおり、AがBからの飲食の誘いを断ることは困難であり、かかる飲食代等を捻出するためにAにより当社資産が不正に換金されたと解される。

3 検証
(1)内部統制ルール上の問題点
ア 簿外資産の管理ルールの不存在
 前述のとおり、ソフトカームの原料となる鉛板を加工する際に生じる鉛屑は常時発生し換金価値があるにも関わらず簿外資産であり、簿外資産については出荷する際に発行する出荷案内書(納品書)を保管して台帳代わりとするのみで、管理台帳のような記録が作成されてこなかった。
 ソフトカーム事業部において、換金価値を有する簿外資産に対する管理意識が希薄であったことは否定できず、簿外資産を適切に管理してこなかったところに根本的な問題がある。

イ 委託原料の在庫管理及び現場確認の不徹底
 前述のとおり、委託原料の預入残高については、取引先から報告を受けるのみで、現場確認が行われていなかった。
 この点、棚卸資産業務記述書にも、委託原料の管理に関する記載がなく、ソフトカーム事業部として委託原料に対する管理意識が極めて希薄であったといえる。

ウ 棚卸資産に関するルール遵守の必要性
 本来、製品を出荷する際は、たとえ商品価値の喪失により不良品として処分する場合であれ、資産の除却として適切な経理処理を行い、社外に持ち出す際も出荷登録を行う必要があるが、本件では、これが行われておらず、棚卸資産業務記述書にも記載がなかった。
 また、棚卸資産業務記述書では、藤岡事業所では毎月末に現物確認を行うことが記載されているにもかかわらず、実際は、3月末と9月末の年2回しか行われていなかった。
 もしこれが実行され、帳簿残高と実際残高の不一致が適切に報告されていれば、棚卸資産の不一致をより早期に発見できた可能性がある。

(2)不正換金の目的及び使途並びにBの関与等について
 当社資産の不正換金は、ソフトカーム事業部の飲食代及びタクシー代を支払う目的で実行されていた可能性が高いと推察されるが、AとBの言い分が食い違っており、その目的、現金の使途、動機づけは、必ずしも明らかではない。
 Aの私的な遊興費等に充てられた明らかな形跡はないものの、32,443,384円は、飲食代及びタクシー代としては余りにも高額であるため、一部はAの個人的目的に流用され、もしくは隠匿されている可能性を排除することはできない。また、もし仮にそれだけの金額がAに渡っていないというのであれば、Y社にも相当の利益が滞留している疑いが残る。
 とはいえ、預けている鉛地金の一部を換金すれば、残高が合わなくなるため、いずれ不正が発覚するのは時間の問題であるから、その手口は極めて稚拙であると言わざるを得ない。
 いずれにせよ、当委員会の調査において、Bが鉛屑の換金(その結果としての代金の取得)を指示した事実や、転売を認識し、あるいは容認していた事実は認められなかった(鉛地金の換金につきAは、自分で思いついたものであり、Bは知らないと述べている)。

(3)アンケート結果
ア 当社役職員等に対するアンケートの結果
 当社資産の不正換金に関するQ1及びQ2に対し、「ある」と回答した役職員は、合計172名中15名であるが、そのうち14名は、ソフトカーム事業部員及び本件の調査に関与した役職員であり、本件を見聞きしたことがある旨を回答したものに過ぎない。
 その他の1名は、国内連結会社の取締役であるが、類似案件の存在を示唆するものであり、後記第3において言及する。

イ 取引先に対するアンケートの結果
 取引先のうち質問に対し「ある」と回答した会社は、本件に関与したY社1社のみである。

(4)Bの言動によるAに対する心理的威圧
 第1、2(4)で述べたとおり、AはBの言動により心理的威圧を感じBに盲従するしかなかったから、Bによる度重なる飲食に常に付き合い、その代金(タクシー代も)やツケの支払も自ら処理するしかなかったものと解される。
 その費用を捻出するため、まずは鉛屑の不正換金に手を出し、それでも費用が賄えなくなるや、鉛地金の不正換金にまで及んだものと考えられる。
 仕事の遅さや杜撰さに看取されるAの事務処理能力の低さや営業に対する甘さ等に対し、BがAに対する叱責を繰り返していたことは事実であり、それをAはBのパワハラと感じたようである。しかし、Bの叱責がAに心理的威圧を与えたにせよ、それをパワハラとまで断定することは困難である。

(5)小括
 以上のとおり、簿外資産及び委託原料に対する管理意識が乏しかったことに問題があり、管理台帳や製品台帳を作成し、現場確認を適時適切に行い、適切に在庫を管理していれば不正は防ぎ得たと思われる。
 簿外資産の管理ルールが定められておらず、内部統制ルールも形骸化していたところ、その虚を突かれたというのが本件の実相であると思料される。
 いずれにせよ、証券市場に対し虚偽情報を開示して不正な利益を得ようといった不正な経済的利得を得る目的があったとは認められない。

4 結論
 当委員会の結論は、次のとおりである。
  ①関与者はAのみであり、Bの関与を認定することは困難である。なぜなら、A自身が自らの関与を認め、Bその他の者が関与したことを認め得る的確な証拠は見つからなかったからである。
  ②換金に関与した取引先は、Y社のみである。
  ③換金された物は、鉛屑、鉛地金及び不良品である。
  ④換金により取得した現金は、ソフトカーム事業部の飲食代及びタクシー代に使用されたと思われるが、すべてがそれらに使用されたかは不 明である。
  ⑤管理台帳及び製品台帳の未作成、月末棚卸しの不実行、出荷登録なしの出荷は、内部統制ルール違反である(パワハラがあったとまでは認められない)。
  ⑥不正換金額は、32,443,384円(平成22年12月~平成27年3月)であったと推計する。

第3 類似案件の調査結果

 ソフトカーム事業部員並びにA及びBへのヒヤリング、各事業部長へのヒヤリング、当社役職員等へのアンケート、取引先へのアンケート及び各製錬所ないし事業部に対するアンケートのいずれによっても、①ソフトカーム事業部における他の不正行為の存在、②他の事業部における同一ないし同種手口による不正行為の存在、③A及びBによる他の不正行為の存在を疑わせる事情は顕出されなかった。
 また、他の事業部では、(i)当社資産(簿外品を含む)の不正転売に関し、たとえ簿外の鉄屑や金属端材といえども、構内の指定場所に保管のうえ業者に定期的に計量のうえ引き取らせ、その代金を本社に送金させていること、(ii)売上の訂正に関し、計上時期や金額のズレによる修正や単価訂正などはおおむね1ヶ月以内に行われていること、これは四半期を含む決算期後に判明した場合でも金額が大きければ会計伝票等により修正され決算に反映されること、をヒヤリング、アンケート及び当社への照会によりそれぞれ確認した。

 なお、当社役職員等へのアンケートにおいて、当社の100%子会社である契島運輸株式会社の前々社長が廃バッテリー部品を横流していた等の噂を聞いたことがある旨の回答が1件あったが、伝聞に過ぎないこと、前々社長は平成20年3月に既に退職しており、相当程度時間が経過していること、またその後はそのような噂は聞いていないという回答を得たため、それ以上の調査を行う必要はないものと判断した。

第4 事前調査後の当社の対応

1 当社は、事前調査の時点である平成26年12月12日に確認書を作成し、既に当社資産の不正換金を認識していながら、平成27年4月3日まで、監査法人に対し、当社資産の不正換金の疑いを報告しておらず、この時点で在庫の棚卸調査も行っていなかった
 この点につき、総務本部長からは、鉛屑は簿外資産であり、鉛地金も所定の破損品ロスの範囲内であると信じ込んでいたため、帳簿残高に影響するとは思いも至らず、よって社長にも鉛屑の転売問題とだけ伝え、確認書は見せていないとの説明があった。
 しかしながら、平成27年4月1日に、監査法人、経理部部員等の立会いのもと実地棚卸を行った時点でも事前調査についての開示はなく、これに加え鉛地金の換金数量が所定の破損品ロスの範囲内では説明しきれない数量であったことに鑑みれば、いささか問題が残る対応であったと言わざるを得ない。
 なお、社長及び他の取締役1名(亜鉛・鉛事業本部長兼務)からは、そのヒヤリングにおいて、平成26年12月時点で、当社資産の不正換金に関し総務本部長から報告を受けたが、その時点では簿外の鉛屑だけの転売であるとの報告しかなかった旨の回答があり、これに社長及び上記取締役を含む全役員からのアンケートの結果を加味し、さらに同年12月末の時点では売掛金残高の差異は未だ判明していなかったこと、ソフトカーム事業部は、全社における売上比率は約2%、在庫比率に至っては約0.2%に過ぎない、当社全体の中では重要度が相対的に低い小規模事業部であったこと等を勘案すれば、会社ぐるみでの組織的な隠ぺいの意図があったとまでは認められない
2 次に、事前調査の時点でBを懲戒解雇とせず、依願退職を認めて退職金を支払った点につき、総務本部長からは、Bは当社資産の不正換金への関与を否認していたこと、一刻も早くBを退職させなければパワハラによりソフトカーム事業部全体が崩壊する危機に瀕していたこと、相談した弁護士からも、パワハラだけでの懲戒解雇は難しいと言われたことから、形としては自主退職として対処し、依願退職を認めたという趣旨の説明があった。
 しかし、Bが不正換金への関与を否認しているのであればBを依願退職させる理由はなかったし、もし仮にパワハラがあったとしても配置転換等の他の方法も考えられたから、この点でもやや疑問が残る対応であったと言わざるを得ない。
 なお、依願退職の点に関しBは、ヒヤリングにおいて、辞めろとは言われなかったが、辞めるように示唆があったと述べている。
3 さらに、平成27年1月23日に開催された当社の企業倫理委員会において、既にその時点で認識されていた不正換金に関する事実及びパワハラに関する苦情がいずれも報告されず、議題にも上らなかったことは、遺憾と言うしかない。
4 ところで、取締役の善管注意義務違反は、取締役の業務執行当時の状況に照らし、取締役の経営判断の前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったか、その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったか、を基準として判断されると一般には解されているところ、平成26年11月から12月の事前調査の時点では、横流し金額も2千万円程度と限定的であり、今後継続して横流し金額を内々に調査して確定するという状況にあり、最終的な金額が確定しないまま平成27年4月3日にまで至り、未だ情報の収集、調査の途上であって、その検討(ましてや判断)も経ていないと善解すれば、当社資産の不正換金の事実をこの時点で報告しなかったという総務本部長の懈怠は、通常の企業人として著しく不合理であったとまではいえない
 加えて、ソフトカーム事業部は、全社における売上比率は約2%、在庫比率に至っては約0.2%に過ぎない、当社全体の中では相対的に重要度が低い小規模事業部であったことは事実であるから、総務本部長が当社への影響度も相対的に大きくないと考えたとしてもあながち不合理とはいえず、加えて当時の当社内では、いわゆるBのパワハラに対する苦情が顕在化し、Bに辞めてもらわなければソフトカーム事業部全体がもたない状況にあったと推察され、総務本部長としては、Bのパワハラの方を経営上のリスクと捉え、パワハラをめぐる情報の収集、調査により重点を置いたとしても、全社的なリスクリスクマネジメントの観点からは不合理とまではいえないと解される(しかもパワハラ問題については対応の結果、一応の終息をみたと解される)ことから、総務本部長が当社資産の不正換金の事実を認識した後、直ちにその事実を報告しなかったという解怠が、通常の企業人として著しく不合理であったとまでは直ちに言えない
 なお、他の取締役については、報告の解怠を観念できないので、意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理であったかについての判断には至らなかった。

第5 総括

1 以上のとおり、本件のうち「不適切な会計処理」については、注文書及び受注伝票の不発行、単価訂正のシステムヘの未登録、Aが独自に行ったバルク売りという受注方式、請求書の不発行及び遅延が、それぞれ原因及び背景事情として考えられるが、さらに次の①から⑤も原因として認められる。
  ①A元来の業務遂行の遅さと杜撰さ。
  ②Aの業務に支障が生じるほどの外回りやBとの飲食の時間負担。
  ③Bからの予算達成に対する明示・黙示のプレッシャーによるAの心理的威圧感。
  ④ソフトカーム事業部の業態の特異性(亜鉛・鉛事業本部のような主流の事業部とは異なり、納入先を年度毎に開拓する必要があること)。
  ⑤ソフトカーム事業部独自のシステム変更に対する処理の不慣れ。
 これらに加え、次の⑥から⑧も原因として認められる。
  ⑥大震災後の原発事故による急激な売上の増加。
  ⑦上記により生産体制が追いつかず、ソフトカーム事業部員が応援する必要が生じ、過度な残業、休日出勤をしたために、事務処理が追いつかなかったという事態。
  ⑧上記にもかかわらず、Bからのさらなる売上拡大へのプレッシャー。
 上記原因のいくつかについては、Bに監督者としての監督責任があるものと認められる。
2 本件のうち「会社資産の不正換金」については、簿外資産についての管理台帳の未作成、帳簿上の在庫資産についての製品台帳の未作成及び現場確認の不徹底、出荷未登録の出荷の容認が、それぞれ原因及び背景事情として考えられるが、さらに次の①から③も原因として認められる。
  ①Bからの心理的威圧に対するAのBへの盲従。
  ②前記盲従による度重なるBの飲食への付き合い。
  ③前記飲食代やタクシー代とツケの費用を捻出する必要性。
3 「会社資産の不正換金」については、A自らが関与していたことを認めているが、Bが関与していたことを認め得る的確な証拠はない。
 また、ソフトカーム事業部の他の部員も明確にはかかる不正を認識していたとは認められず、ソフトカーム事業部内における組織的行為であったとまではいえない。
 さらに、ソフトカーム事業部以外の事業部又は当社において、かかる不正に加担・黙認していたと認められる者が存在したことを認め得る証拠も見当たらず、本社の管理者までが関与した組織的な行為ではなかったものと認められる。
 加えて、ソフトカーム事業部は、昔から独立採算的な部署であり、取り扱う製品が建材であって、取引先が他の事業部とは大きく異なる上、販売管理システムも他の事業部とは別のシステムを使っている。
 しかも全社における売上比率は約2%、在庫比率は約0.2%と、当社の中では「離れ小島」とも揶揄される小規模の事業部であり、重要性の観点から、取締役会でも重視されることがなく、監査法人の監査でも、内部統制の評価範囲外であり、唯一、勘定残高の実在性の検証から一定金額以上の残高先に該当したX社に対する売掛金の直接確認があったのみである。
 これらの諸理由からソフトカーム事業部の上記のような無理のある態勢に注意が払われることがなかったことが本件の背景にあったと考えられるが、当社が会社ぐるみでソフトカーム事業部の不正に加担したと考える合理的な理由とこれを裏付ける証拠は見当たらない。
 いずれにせよ、当委員会が入手した証憑書類及びヒヤリングの結果からは、会社ぐるみで不正が行われた可能性までは認められず、取締役による組織的・全社的な関与は認められない。
 しかしながら、事前調査で会社資産の不正換金が判明した後も監査法人に報告せず、漫然放置した不作為については、当社の殿様商売的な社風を反映したものと言わざるを得ず、コンプライアンス上、問題が残る対応であった。
4 今回の換金価値ある簿外資産を利用した不正は、委託加工先とソフトカーム事業部の課長との共謀によりなされたものであり、特殊な事例といえる。
 しかも、当社のいずれの事業部でも作成されている日常的モニタリング評価シートは、作成者(モニタリング実施者)が実施者として押印し、事業部長が部署の長として押印する二重態勢となっているところ、本件では不正を行った同課長であるAが評価者として作成しており、共謀は否定するものの監督不行届を自認する部署の長であるBが責任者として押印していることから、必ずしも内部統制が有効に機能せず、その意味では内部統制の限界事例であったといえよう。
 よって、本件を直ちに内部統制の破綻とまで評することはできず、また本 件が会社ぐるみの隠ぺい体質に起因するともいえないが、本件により、上記のようなやや主流から外れた事業部に対する内部統制を有効に機能させることの難しさと重要性が浮き彫りにされたといえよう。

Ⅳ 本件に伴う当社の会計処理の修正と過年度決算への影響

 当社は、平成27年3月期末に生じていた売掛金残高の差異並びに製品及び原料の実棚差異について、管理本部長から、次のような修正処理をしているとの報告を受けた。

  ①売掛金残高の差異についての修正処理(単位:円)
   過年度分(平成26年3月期以前に生じた差異)
    (借)雑損失   55,139,471  (貸)売掛金   57,896,445
    (借)仮消費税  2,756,974

   当年度分
    (借)売上高   15,812,047  (貸)売掛金   17,077,011
    (借)仮消費税  1,264,964

  ②製品及び原料の実棚差異についての修正処理(単位:円)
   不正換金及び過年度分の不適切な会計処理に起因する差異
    (借)雑損失   103,920,308  (貸)製品    147,444,783
    (借)原料    43,524,475

   当年度分の不適切な会計処理に起因する差異
    (借)製品   30,719,838  (貸)売上原価   15,780,413
                   (貸)原料     14,939,425

 当社の平成26年3月期の有価証券報告書によれば、全社(連結ベース)の売上高は118,619百万円、経常利益は4,428百万円である。
 これに対し、本件に伴う不正換金及び過年度分の不適切な会計処理に起因する雑損失の合計金額は159百万円であり、対売上高では0.1%、対経常利益では3.59%と、金額的重要度はいずれも相対的に僅少であると解される。
 また、本件は、ソフトカーム事業部員であるAとY社社長との共謀による不正換金と、ソフトカーム事業部員であるAとX社との特殊な取引における不適切な会計処理に起因するもめであって、証券市場に対し虚偽情報を開示して不正な利益を得ようといった不正な経済的利得を得る目的があったとまでは認められない。
 以上を勘案すると、過年度の決算を修正せずに、平成27年3月期に一括処理をすることは、不合理であるとまではいえない。

V 再発防止策

第1 内部統制システムに関する個別的改善策

1 人的要因に対する改善策

 本件は、Bによる厳しい言動に起因するAの心理的威圧及び絶対的な作業時間の不足が原因として考えられ、組織ぐるみの不正ではない。
 この点、ソフトカーム事業部は、執務スペースが他の事業部とフロアが違うことにより隔離されている等、そもそもBによる厳しい言動が他の事業部に発覚しにくい環境にあった。
 また、Bはソフトカーム事業部のトップたる事業部長であり、組織上Bを直接監督する者がいなかったこともBの厳しい言動を抑止できなかった要因の一つであった。
 前述のとおり本件ではパワハラがあったとまで断定することはできないが、いずれにせよ上司の言動により部下が心理的威圧を感じ、業務の遂行に支障が出るような事態を生じさせるべきではない。
 当社では「パワーハラスメントの禁止に関する規程」を設け、相談及び苦情処理の窓口を設置し、ヘルプラインを設けているが、これらは本件のようなケースにも有効であると解される。
 今後は、一般従業員を含めた全従業員に対するコンプライアンス教育により、パワハラヘのより一層の理解を求めるとともに、全従業員に対し相談及び苦情処理の窓口並びにヘルプラインの利用を周知徹底する必要がある。

2 不適切な会計処理の防止策

(1)売掛金業務記述書の見直し及び実行
 当社では、売掛金業務記述書を作成し遵守を求めているが、本件では、取引先との受注内容の確認及び単価の変更等の規定されたプロセスが形骸化し、適切に実行されていなかった。
 特に、受注内容を取引先との間で確認し、その後受注内容を受注伝票で確認する作業を解怠していたところに問題があるが、そもそも受注伝票の作成はソフトカーム事業部の実際の業務フローに沿っておらず、注文書の受領等の業務実態に合った内容に見直すべきである。
 今後は、ソフトカーム事業部員に対し、見直した売掛金業務記述書の内容を周知徹底し、その実行を求める必要がある。

(2)注文書の受領
 本件では、受注内容を取引先との間で確認せず、その後受注内容を受注伝票で確認することもせずに取引を進めた結果、取引先との間で販売単価の認識に差異が生じた。
 業務記述書においては、受注内容の確認手段として注文書の受領までは要求されていないが、今後ソフトカーム事業部においては、注文書の発行を受けることを原則とし、万がー注文書の発行を受けられない場合でも、受注内容の取引先との確認及び受注内容の受注伝票による確認を実施するよう周知徹底すべきである。
 加えて、バルク売りのような曖昧かつ不透明な取引は行わないことである。

(3)売掛金残高の適正な管理
 本件では、当社の認識する売掛金残高と取引先の認識する買掛金残高に多額の差異が生じていたにもかかわらず、事業部長Bは、不適切な会計処理を見抜くことができなかった。
 仮に業務担当者が本件のような不適切な会計処理を行ったとしても、業務責任者において、回収未了の売掛金が滞留していることに気付くことができれば、早期に発見することができた可能性が高い。
 今後ソフトカーム事業部においては、業務記述書の内容を周知徹底するとともに、経理部において滞留債権を確認する頻度を高める等、ソフトカーム事業部の売掛金に対するチェツクを強化すべきである。

3 当社資産の不正換金の防止策

(1)簿外資産の適正な管理
 本件では、ソフトカーム事業部の簿外資産が不正に換金されていたが、ソフトカーム事業部では数量及び金額の記録はー切行われていなかったため、今後は、簿外資産であっても、換金価値を有する資産については数量及び金額の記録をルール化し(たとえば管理台帳の作成)、適正に管理すべきである。

(2)委託原料の適正な管理
 本件では、委託原料が不正に換金されていたが、預け入れている数量について委託先から報告を受けるのみで、現物を確認していなかったために、これを見抜くことができなかった。
 今後は、ソフトカーム事業部側でもまずは製品台帳を作成すべきであり、あわせて定期的に現場における現物確認を実施する等の改善策を実施すべきである。

(3)棚卸資産業務記述書の実行及び見直し
 前述のとおり、当社では、棚卸資産業務記述書を作成し遵守を求めているが、本件では、ソフトカーム事業部において製品台帳の作成が求められているにもかかわらず、作成されていなかった。
 また、藤岡事業所において毎月行うべきことが定められている現物確認についても実施されていなかった。
 今後は、ソフトカーム事業部員に対し、改めて棚卸資産業務記述書の内容を周知徹底し、その実行を求める必要があり、仮に業務実態に合わない内容であれば見直すべきである。
 さらに、本件では、藤岡事業所の現場担当者が、Aによる「出荷登録をしないように」との指示に従い、何ら疑問に思うことなく、出荷登録をせずに製品を出荷していた事実、報告を受けた上司もそれを了承していた事実を、重く受け止めなければならない。
 今後は、ソフトカーム事業部員のみならず、棚卸資産の管理に従事する現場の一般従業員に対するルールの周知徹底にも力を入れる必要がある。

(4)除却資産の適正な管理等
 本件では、商品価値を喪失した不良品が出荷登録されずに出荷され、一部が不正に換金されていた。
 今後は、出荷登録をせずに出荷することがないように業務分掌に従って業務を実施し、内部統制を有効に機能させるように運用の徹底を図るとともに、年2回の棚卸を月1回に変更する等の改善策を実施すべきである。
 なお、ソフトカーム事業部における棚卸資産の不一致が、外注委託分過大計上と除却処理未了により発生していることを重く受け止め、ソフトカーム事業部の委託先からの委託製品の受け入れ及び委託先から客先への委託製品の売り上げの各処理を適正に実行し、あわせて製品が不良化した際の早急な評価替えも実行すべきである。

第2 内部統制システムに関する一般的改善策

1 予算達成に向けた過度のプレッシャーの解消

 Bは、売上及び予算に対する執着が非常に強かったため、予算必達という方針が最優先され、その結果、当社のX社に対する売掛金残高を下方訂正することが困難な環境となっていた。
 なお、他の事業部門の事業部長らに対するヒヤリングにおいては、予算達成に向けた適度のプレッシャーの存在はうかがわれたものの、過度のプレッシャーの存在までは認められなかった。
 今後ソフトカーム事業部においては、予算数値の適正を確認し、予算管理においても目標数値の達成状況のみではなく、未達時の原因分析と対応策を検討する等のプロセスに改善する必要がある。

 2 パワハラの防止

 事業部長に対するヒヤリングおいて、ソフトカーム事業部大阪支店、電子部品事業部及び小名浜製錬所で、それぞれパワハラがあった旨の言及があった。
 いずれも予算達成に向けたプレッシャーが、その最大の理由であると思われる。なお、上司との折り合いが悪い、意見が合わないといったことは、従前は直ちにパワハラにあたるとは解されなかったが、今ならパワハラの定義に入るかもしれないとの指摘が他事業部の事業部長からはあった。もとより限界線上の判断は微妙であるが、時代の趨勢に則し基本的には受け手がパワハラと認識しているか否かを第一義的には尊重すべきであろう。
 当社は、当社全体の取組みとして社内で策定した「パワーハラスメントの禁止に関する規程」を実行するとともに、同規程の内容を管理職のみならず、一般従業員にも周知する必要がある。
 また、同規程に規定されているとおり、パワハラ事案発生の原因を分析し、教育の実施等、適切な再発防止策を講じる必要がある。

3 定期的人事ローテーションの実施

 当社では、事業部間での人材交流は積極的に行われておらず、ソフトカーム事業部員は、入社時からソフトカーム事業部に所属している者が大半である。
 現にAは、リサイクル事業部からソフトカーム事業部に配転されてから既に11年を経過しており、Bに至っては退職するまでの間、ソフトカーム事業部に26年所属していた。
 また、Aは、ソフトカーム事業部の経費精算の窓口を11年以上担当する等、事業部内における担当業務のローテーションも積極的に行われていなかった。
 加えて、Y社はその売上の70%を当社に依存する中小企業であって、当社に対し従属的立場にあったから、Aの指示には直ちに逆らえない関係にあったことも指摘することができる。
 本件における直接の原因であるとまではいえないが、一般的に、人事異動の停滞は不正行為の温床となり、その発見を遅らせる要因にもなることから、もし仮に事業部間でのローテーションがなく同一事業部内に長年とどまる場合でも、事業部内におけるローテーションを実施し、また一人ではなく複数人が担当する等の方策を実行することが望ましい。

4 コンプライアンス・マニュアルの周知徹底と企業倫理委員会の充実

 当社は、役員をはじめ社員全員が遵守すべき行動規範としてコンプライアンス・マニュアルを制定し、当社又は社員の行動が、法令、定款、コンプライアンス・マニュアル等から逸脱していると判断される場合、あるいは逸脱するおそれがある場合には、迅速にその事実を上司に報告、相談し、また直接、社長直属のCSR推進室に報告、相談でいることを規定している。
 加えて、当社グループのコンプライアンス経営をより徹底、推進させ、企業不祥事の発生防止並びに万が一の際の迅速かつ適切な対応を図ることを目的として、取締厄介の諮問機関である企業倫理委員会が設置され、3ヶ月毎に開催されている。
 しかしながら、平成27年1月23日に開催された企業倫理委員会においては、既にその時点で認識されていた不正換金に関する事実及びパワハラに関する苦情は、いずれも報告されず議題にも上っていない。
 ところで、CSR推進室は、コンプライアンス・マニュアルに規定された社内通報相談窓口であり、CSR推進室に社内通報があったときは、その通報・相談受付簿に記載され、また企業倫理委員会にも報告されるという流れになっているところ、今回のBによるパワハラに関する苦情については、CSR推進室への通報はなかった。
 とはいえ、事前調査及びパワハラに関する事実調査に関わっていた総務本部長をはじめとするメンバーは、CSR推進室のメンバー、企業倫理委員会の委員又は事務局メンバーでもあったのであるから、不正換金に関する事実及びパワハラに関する苦情を認識した時は、コンプライアンス・マニュアルに規定された社内通報相談窓口に通報がなかったとしても、事の本質に基づき、CSR推進室にて取り上げ、企業倫理委員会にも報告すべきであったことは当然であり、これを行った同人らは、この点を猛省しなければならない。
 今後は、コンプライアンス・マニュアルの周知徹底とCSR推進室及び企業倫理委員会のより一層の充実を図る必要がある。
 なお、当社では、現在、コンプライアンス教育として、管理職に対するeラーニング等も実施しているが、本件の発生を踏まえ、全従業員に対し、改めてコンプライアンス・マニュアルの存在及び内容を周知するとともに、コンプライアンス・マニュアルのより一層の順守を求める必要が有る。

5 内部通報制度の形骸化解消とその周知
 当社では、ヘルプラインの他、パワハラやセクシャルハラスメントの相談及び苦情処理窓口を設置し、社内報や社内掲示板により周知しているが、今後も引き続き、社内掲示板やイントラネットを利用して、さらなる周智に努めるべきである。
 当社のホームページ上に、コンプライアンス通報・相談窓口なる項目を新設し、窓口の運営、対応の流れ、具体的な連絡先と連絡方法等を示し、対外的な周知を計ることも検討されてよい。
 いずれのチャンネルからの通報であれ、通報者の氏名はもとより、通報の有無が伝わることにより、無用な詮索が行われる可能性があることに留意し、内部通報の取扱には十分に注意する必要がある。

6 内部監査室の機能強化
 当社では社長直属の部署として内部監査室を設け、業務貴寿所の作成や日常的モニタリング評価シートの配布及び回収等を行い、内部監査の充実を図っているが、内部統制報告書上は、ソフトカーム事業部は業務プロセス評価の対象外であった。
 加えて、前述のとおりソフトカーム事業部では業務記述書の形骸化は否定できず、日常的モニタリング評価シートについて、評価者として作成するのが本件に関与したAで、責任者としてそれをチェックするのが監督不行届を自認するBであったことから、必ずしも奏功しなかった。
 今後は、ソフトカーム事業部に対しても実質的なモニタリングを行い、内部監査機能のより一層の強化を図る必要がある。
                    以上
**********

■このように、第三者委員会による調査報告書を見ても、今回の不正会計の責任の所在について、いろいろな疑問が解き明かされることなく、「不正会計による金額がわずかなので、この事件の重要度はさほど大きくは無い」という結論を導いているのが気になります。

 東邦亜鉛では、不正会計に関与したソフトカーム事業部の前営業担当課長に対して法的な対応を取ることを示唆している一方で、パワハラを行った上司のソフトカーム前事業部長は、既に事件が発覚して事前調査の時点だったのにもかかわらず懲戒解雇とせず、依願退職を認めて退職金を支払ったということです。

 この措置について、東邦亜鉛は、相談した弁護士(顧問弁護士か)が「パワハラだけでの懲戒解雇は難しい」とコメントしたので、「形としては自主退職として対処し、依願退職を認めた」という趣旨の説明を、第三者委員会にしたのだそうです。

 しかし第三者委員会は、「Bが不正換金への関与を否認しているのであればBを依願退職させる理由はなかったし、もし仮にパワハラがあったとしても配置転換等の他の方法も考えられたから、この点でもやや疑問が残る対応であったと言わざるを得ない」として、東邦亜鉛の隠蔽体質を指摘しています。

 なお、ネットで検索してみると、この意見が発覚した前後に、ソフトカーム事業部関連の人事として、次の異動が発表された経緯があります。

2014年12月21日付 ソフトカーム事業部長、有谷健二郎
2015年03月21日付 ソフトカーム事業部部長、田伏昭義

 この辞令が、今回の不正会計にどう関係しているのかは分かりませんが、見方によっては昨年12月には事件発覚が社内で認識されていたことから、こうした人事が行われたのかもしれません。

■ソフトカームの開発に際しては、非鉄原材料製造一辺倒でなく、なんとか付加価値を付けようと現・取締役兼常務執行役員で契島製錬所長をしている元技術・開発本部長兼技術部長が商品開発に心血を注いだ産物ということですが、やはり亜鉛精錬事業に軸足を置いたままの同社の経営体質により、企業統治がおろそかになっていた結果、今回の不祥事を招いたとも考えられます。

 最近は公害防止のための技術や設備更新にも積極性が見られない東邦亜鉛ですが、企業統治のルーズさがここに来て露呈している日本の産業界の古い体質を引きずっているようでは、安中製錬所のかかえる公害対策問題の解決はもとより、国際競争にも打ち勝つことができるのか、はなはだ心配です。

【ひらく会情報部・この項終わり】

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1億5900万円の不正会計発覚でパワハラと隠蔽体質が露呈した東邦亜鉛の第三者調査報告書の書きぶり(2)

2015-08-11 01:26:00 | 東邦亜鉛カドミウム公害問題

■東邦亜鉛安中製錬所恒例の工場見学会は、例年4月の第1土曜日に開催されるのが常でしたが、今年は、なぜか4月11日の第2土曜日開催でした。どうやらこの背景には、不正会計発覚による社内調査の事情があったものと見られます。今年の工場見学会の様子は次のブログをご覧ください。例年になく、東邦亜鉛側の説明に元気が見られませんでした。おそらくこの不祥事件の内部調査でてんてこ舞いだったのでしょう。それでは引続いて、第三者委員会の調査報告書の第Ⅲ章の調査結果を見てみましょう。
○2015年5月2日:東邦亜鉛安中製錬所における4.11第24回工場視察会の参加報告(その1&2)
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1603.html#readmore
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1604.html#readmore

**********
Ⅲ 調査結果

第1 不適切な会計処理

1 事実の概要

(1)前提となる事実関係
ア ソフトカーム事業部及びソフトカームについて
 ソフトカーム事業部は、「ソフトカーム」と呼ばれる商品の製造及び販売を主たる事業とする当社の一事業部門であるが、当社全体に占める売上の割合は約2%、製品在庫の割合は約0.2%である。
 ソフトカームは、比重が大きく柔らかい金属である鉛を遮音材として利用し製品化した商品であり、住宅やビル等の建材として利用されている。
 また、ソフトカームは、放射線遮蔽・防護材としての性能も有しており、医療施設や工業施設の建材としても利用されている。

イ X社との取引の概要
(ア)売上規模等
 X社は、ソフトカーム事業部における主要な取引先であり、X社に対する売上は、平成27年3月末時点でソフトカーム事業部の売上全体の約22%を占めている。
 もっとも、Bがソフトカーム事業部の事業部長に就任した平成23年5月よりも前の同年3月末時点のX社に対する売上の割合は、ソフトカーム事業部の売上全体の約8.5%であったが、Bの事業部長就任後、東日本大震災の影響で歯科医院や個人病院でのソフトカームの需要が減少する中で、BはX社への取引量を増やしていった。
 X社に対する営業は主にAが担当し、受注、請求書の発行等の一連の業務を行っていた。

(イ)X社の支払条件
 X社に対する請求は、X社の指定する請求書を使用し、当月中に納品した商品を当月末締めで行っていた。当社への入金予定日は、締日から5か月後の日の属する月の10日(たとえば3月末締めの場合は8月10日)であった。

(ウ)販売管理システム
 ソフトカーム事業部では、建材の販売を主たる業務としているが、多種多数の商品を多数回納品する販売形態であり、商品の販売形態が他の事業部と異なるため、当社の販売管理システム(GP6000)(当会注:富士通のオフコンGRANDPOWER6000か。東邦亜鉛はネットも富士通を利用)とは異なる独自の販売管理システムであるソルディナを使用していた。
 なお、ソルディナの使用期限は平成24年3月31日であったため、現在は電子部品事業部、電解鉄事業部及びプレーティング事業部で使用しているシトリックスにシステムを移行している。

(エ)業務フローの概要
 X社との取引に関し、受注から請求までの業務フローの概要は、次のとおりである。
 ①受注
  X社から受注したときは、販売管理システムに商品名、数量、単価等を入力する。
 ②出荷
  出荷時に出荷登録を行う。出荷登録により当社の販売管理システム上、売上が計上される。
 ③請求
  X社の書式を使用して請求書を発行する。なお、請求書の発行と当社の販売管理システムは連動していない。
 ④単価訂正
  単価訂正を行う場合は、当社の販売管理システムに登録されている単価を訂正する。

ウ 売掛金残高の不一致の概要
 平成24年3月31日期から平成27年3月31日期までの各期における売掛金残高の不一致の額は、次のとおりである。

                             (単位:千円)
 事業年度   第113期  第114期  第115期  第116期
  期末    H24.3.31  H25.3.31  H26.3.31  H27.3.31
 売掛金:
  当社残高   136,889   118,086   195,585   257,511
  X社残高   136,889   81,647   137,495   257,896
  差額        0   36,439   58,090    ▲385

エ 売上・売掛金業務プロセスの定め
 当社が定めた平成21年2月5日付け「ソフトカーム製品に係る売上・売掛金業務プロセス業務記述書」(以下「売掛金業務記述書」という)においては、ソフトカーム事業部における売上計上については、次のプロセス(以下は抜粋)を経ることが記載されている。なお、売掛金業務記述書は、内部統制監査報告書の対象になっていない。
(受注)
 ①業務担当者は、電話・メール・FAX等で注文を受ける。
 ②業務担当者は、出荷場所に在庫の確認をし、販売管理システム受注データ(取引先、製品、数量、金額)の入力後、「物件別受注伝票」を発行し、出荷場所にFAX送信をする。
 ※販売管理システム上、受注データが、出荷・売上データとなる。
 ③業務担当者は、在庫未達の場合は生産依頼をし、最短納期の確認をする。
 ④業務担当者は、運送業者へ「引取書」を送付し、配送の手配をする。
 ⑤業務担当者は、取引先に電話・メール・FAX等で連絡をし、受注内容の確認をする。
 ⑥業務担当者は、取引先からのFAX等受注内容と受注伝票との確認をする。
 ⑦業務責任者は、取引先からのFAX等受注内容と受注伝票との確認をする。
 ⑧営業責任者は、「与信管理表」を定期的に入手し、債権残高を検証している。
(出荷)
 ①業務担当者は各出荷元に出荷毎の引取車両車番・乗務員名を受注番号と共に各事業所製品担当者へ事前に連絡する。
 ②業務担当者は、販売管理システムから出荷日報を出力し、受注どおりに出荷が行われたかを確認する。また生産委託業者及び営業倉庫からは「路線便送り状」のFAXで出荷の確認をする。
 ③生産委託業者及び営業倉庫出荷分の出荷入力をする。
(請求)
 ①業務担当者は、扱い店の締め日毎に販売管理システムより「請求書」を出力する。
 ②業務担当者は、「請求書」と「売上伝票」の取引先・数量・単価・品名(サイズ、鉛厚等)・品種・鉛量等とを照合する。
   また請求書の発行漏れがないか確認をする。
 ③営業責任者は、「請求書」を査閲し、押印する。
 ④業務担当者は、発行後すぐに全て発送する。
  以下の場合には、当社指定「請求書」の発送を行わない。
  ・取引先から「支払通知書」が送られてくる時・・・業務担当者は金額を確認し、経理担当者へ「支払通知書」を渡す。
  ・取引先指定の「請求書」の発送
 ⑤業務担当者は、「請求書控」を事業部にて保管する。
(割戻)
 ①営業担当者は新規に発生する割戻及び既契約分の単価等の変更については、営業責任者の承認を得て「納品書」の訂正発行を行い送付する。
 ②業務担当者は、営業責任者の承認後、新規及び特値、変更について販売管理システムで単価・支払条件等を入力する。新規及び特値、変更が無い限り、単価・支払条件等は「価格表」及び「支払い条件表」に基づき当月分に反映される。

オ 棚卸(製品・貯蔵品)資産に係る業務プロセスの定め
 当社が定めた平成21年3月6日付け「ソフトカーム事業部に於ける棚卸(製品・貯蔵品)資産に係る業務プロセス業務記述書」(以下「棚卸資産業務記述書」という)においては、当社が購入した資材に関する値引きについて、次のプロセスを経ることが記載されている。なお、棚卸資産業務記述書は、内部統制監査報告書の対象になっていない。
(値引)
 ①返品・値引をすることが決まったら「返品・値引記録票」に内容(入荷日、発注先、品名、数量、返品・値引の区別)を記入しておく。
 ②藤岡事業所業務担当者へ返品の手配をする。
 ③既に販売管理システムに仕入入力をしているものに対しての値引き処理は、既入力内容の取り消し入力をすると同時に、値引き後の新価格の発注情報を入力する。
 ④購買責任者は、値引に問題がないか確認の上承認し、「返品・値引記録票」に承認押印する。

(2)不適切な会計処理
ア 注文書の不発行及び単価合意の不存在
 Aは、平成23年3月以降、X社からの注文の約半数について、電話にて取引条件(品名、数量、単価等)を確認するのみで、注文書の発行を受けなかった。
 また単価についても、電話にて明確に合意していない、又はそもそも合意ができていないことが多かった。
 そのため、請求時に当社とX社の間で請求額に関する認識に差異が顕在化することとなった。

イ 単価訂正(値引き)の解怠
(ア)請求書の再発行後の単価訂正(値引き)の解怠
 Aは、X社から請求金額が異なる旨の連絡を受けると、赤伝を発行するのではなく、単価を訂正した請求書を新たな発行日付で発行していた。請求書は、X社が指定する書式をエクセルファイルで作成していたため、請求書の作成により当社の販売管理システム上登録された単価や支払予定日のデータが直ちに変更されることはなかった。
 そのため、本来は、新たな請求書を発行した後、当社の販売管理システム上、単価訂正等の処理を行う必要があったが、Aは、新たな請求書を発行した後、当社の販売管理システム上、単価訂正の処理を行わなかった。
 その結果、システム上は旧請求書のデータが残存し、当社のX社に対する売掛金が単価訂正前の請求書の金額のままとなり、他方X社では単価訂正後の請求書をもとに買掛金を計上するため、当社のX社に対する売掛金とX社の当社に対する買掛金残高との間で、差異が生じることとなった。

(イ)請求書の再発行の塀怠
 前記の他、Aは、X社から請求金額が異なる旨の連絡を受けても、請求書の再発行すら行わないこともあった。

ウ 請求書の不発行及び遅延
 前記の他、Aは、X社に対する請求書をそもそも発行していないこともあり、この場合は、当社において売掛金が発生するが、他方X社では買掛金を認識しないため、当社のX社に対する売掛金とX社の当社に対する買掛金残高との間で、差異が生じることとなった。また、請求書の発行自体が遅れることが頻発していた。

エ 入金予定日の延期(変更)
 Aは、X社に対し単価を訂正した請求書を新たに発行した場合、当社の販売管理システムに登録されている入金予定日を最大で4か月程度延期(変更)していた。

オ 差異の金額
 当社のX社に対する売掛金残高とX社の当社に対する買掛金残高との差異は、平成26年12月31日時点において合計152,867千円であるが、その内訳は次のとおりであり、Aによる不適切な会計処理が原因であると考えられる差異(①及び②のうちの期ズレ以外)は最大で87,128千円であった。
② 請求漏れ 1,575千円
 ②単価訂正(値引)未了、バルク売り(この意味については後述のとおり)、期ズレ等 85,553千円
 ③期ズレ 65,739千円

(3)不適切な会計処理以外の理由による売掛金残高の差異
 当社のX社に対する売掛金残高とX社の当社に対する買掛金残高との差異には、期ズレにより生じたものが一部含まれていると解されるが、これは後述するとおり、不適切な会計処理によるものとはいえない。

(4)小括
ア 平成24年3月31日期以降の各期末の当社のX社に対する売掛金残高とX社の当社に対する買掛金残高との差額及び差異の理由をまとめると、下表のとおりとなる。

                              (単位:千円)
 事業年度    第113期  第114期  第115期  第116期
  期末     H24.3.31  H25.3.31  H26.3.31  H27.3.31
 売掛金:
  当社残高   136,889   118,086   195,585   257,511
  X社残高   136,889    81,647   137,495   257,896
  差額        -    36,439   58,090    ▲385
 差額の理由:
  単価訂正(値引)未了、バルク売り、期ズレ等
            -    36,439   58,090      -
                (*)   (*)
  期ズレ       -      -      -    ▲385
  合計        -    36,439   58,090   ▲385
   (*)この欄内の数字のうち、「期ズレ」分がどれだけ含まれているかについては不明である。

イ 平成26年3月31日期以降の各四半期末の当社のX社に対する売掛金残高とX社の当社に対する買掛金残高との差額及び差異の理由をまとめると、下表のとおりとなる。

                                (単位:千円)

 事業年度    第116期  第116期  第116期   第116期
  期末     H26.6.30  H26.9.30  H26.12.31  H27.3.31
 売掛金:
  当社残高    245,538   301,895   332,262   257,511
  X社残高    162,010   163,043   179,395   257,896
  差額      83,528   138,851   152,867    ▲385
 差異の理由:
  請求漏れ       -      -    1,575       -
  単価訂正(値引)の未了、バルク売り、期ズレ等
          83,528   87,001   85,553       -
          (*)
   期ズレ       -   51,850   65,739    ▲385
   合計     83,528   138,851   152,867    ▲385
   (*)この欄内の数字のうち、「期ズレ」分がどれだけ含まれているかについては不明である。

2 原因及び背景事情

 Aによる不適切な会計処理が行われた原因及び背景事情としては、次のものが考えられる。

1)売掛金業務記述書等の内部統制ルールの形骸化
ア 受注内容の受注伝票による確認解怠
 Aは、受注の約半数について口頭により注文内容を確認するのみで、注文書を受け取らないばかりか、受注伝票も作成していなかった。
 その結果、受注内容(数量、単価)について、顧客との間で認識が一致せず、売掛金の額に差異が生じる事態となった。
 責任者の承認を得て、納品書の訂正発行を行い、販売管理システムで変更後の単価を入力することになっている。
 また、棚卸資産業務記述書では、購入した資材について値引きを受けることが決まった場合には、値引記録票に内容(入荷日、発注先、品名、数量、値引)を記入し、既に販売管理システムに仕入入力をしているものに対しての値引き処理は、既入力内容の取り消し入力をすると同時に、値引き後の新価格の発注情報を入力することになっている。
 その上で購買責任者は、値引に問題がないか確認の上承認し、値引記録票に承認押印することになっている。
 つまり、単価訂正(変更)や値引きを行う場合には、赤伝を発行するのが原則である。
 しかしながら、本件では赤伝ではなく、請求書の再発行が行われ、しかも販売管理システム上、単価訂正の処理が行われておらず、その結果、売掛金が当初請求額のまま残存し、請求金額が膨らんでしまったものと解される。

(2)バルク売り(買い)に起因する請求書の不発行
ア バルク売り(買い)による受注方式
 X社は、ゼネコンを介して病院の内装工事の施工を受注しており、その流れの中で当社に製品を発注していた。病院の内装工事に関するX社の発注は、規模が大きいことが多く、当社のX社に対する売上の約3分の1を占めていた。
 X社は、大型案件を発注する場合、製品の数量に単価を乗じて売買代金額を計算するのではなく、一物件(たとえば、ある病院の案件)あたりいくらという形で売買代金額を見積り、当社の担当者であるAに対し発注を行っていたようである(本調査報告書において「バルク買い」ないし「バルク売り」という)。

イ 追加発注時の請求書の不発行
 X社は、工事の進行に応じ足りなくなった製品をソフトカーム事業部に追加発注することが多かったが、この際当社では出荷をする以上、出荷登録をするから、その都度、売上を計上することになる一方、Aはバルク売りと認識していたから、追加の請求書をX社に対し発行することができなかった。
 その結果、X社としては当初のバルク買いの中での発注と理解し、追加発注分を買掛金として計上せず、そこから当社の売掛金との間で金額が一致しない事態が発生するに至った。
 なお、前述のとおり、AとX社との間では、そもそも受注時に単価に関する合意形成ができていないケースも多かったが、バルク売りの場合は、その性格上、受注時に単価に関する合意形成ができなかった。

(3)予算達成へのプレッシャー
ア ソフトカーム事業部の特殊性
 当社には、平成27年4月1日現在、次の8つの事業部が存在し、事業部ごとに営業を抱え、独立採算にて事業を行っている。
 ①亜鉛・鉛事業本部
 ②電子部品事業部
 ③電解鉄事業部
 ④プレーティング事業部
 ⑤ソフトカーム事業部
 ⑥環境・リサイクル事業部
 ⑦資源事業部
 ⑧機器部品事業部
 もっとも、ソフトカーム事業部の営業方法は、他の事業部とは異なっている。たとえば、当社の主要な事業である亜鉛・鉛事業本部では、顧客及び価格が固定されているため、営業に対するノルマというものがない。しかし、ソフトカーム事業部は、工務店、歯科医院、個人病院等の比較的小規模の顧客を相手にするため、顧客や価格が固定化することはなく、売上予算を達成するためには、新規顧客を開拓したり、単価交渉を行う等の地道な営業活動が必須となる。
 そのため、ソフトカーム事業部では他の事業部に比べ営業担当者の数が多く、営業担当者は、日中は外回りのため外出することが多いことから、所定の就業時間内に事務作業に充てる時間を十分に確保することができず、自然と残業が多くなっていた。
 また、前述のとおり、ソフトカーム事業部の当社全体に占める売上の割合は約2%、製品在庫の割合は約0.2%と極めて小規模の事業部であり、「離れ小島」と揶揄される程であった。
 この点に関し、Bは、売上ないし利益が減少すればソフトカーム事業部自体の存亡すら危ぶまれると考え、部員に売上予算達成に関し檄を飛ばしていた。

イ Aに対するプレッシヤー
 Bは、平成23年5月にソフトカーム事業部の事業部長に就任した後、売上及び利益の拡大を目指し、営業活動を強化した。
 当社とX社は、Bの前事業部長の代から取引を開始したが、Bが事業部長に就任した後は、特に営業活動を強化し、売上を増大させていった。
 ソフトカーム事業部全体の売上に占めるX社の売上の割合が高まるにつれ、BはX社を担当するAに対し、営業活動について強い口調で指導するようになり、AはX社からの注文は絶対に断るなとBから言明されていた。
 そのため、予算の未達に直結するX社の売掛金残高の下方修正に関しては、Aに強い心理的抵抗が働いた可能性は否定できない。
 なお、予算の未達に関し、BはAのみならずソフトカーム事業部の全員を集めて「どうするんだ」としばしば怒っていたと、あるソフトカーム事業部の部員は述べている。

(4)Bによるパワハラ及び過剰な飲食等の疑い
 Aは、不適切な会計処理を行った原因として、①Bのパワハラによる精神的圧迫及び②Bによる過剰な飲食に起因する就業時間の絶対的不足を挙げているため、以下に検討する。

ア パワハラについて
(ア)Aのヒヤリング
 Aのヒヤリングにおいて、次の申告があった。
  ・Bは、ソフトカーム事業部の部員に対し、特段の理由なく罵声を浴びせる、怒鳴り散らす、さらには業務上の必要性に欠ける携帯電話の電子メールを多数回送信し、返信を強要する等の行為を日常的に繰り返していた。
  ・Bは、部下に対し、予算達成に向けて厳しい言葉を投げかけていた。
  ・Bの行為は、Bがソフトカーム事業部の事業部長に就任した平成23年5月以降に始まった。

  ・特にAに対する行為は他の部員に比べて頻度が高く、強度の強いものであった。

(イ)他のソフトカーム事業部員のヒヤリング
 他のソフトカーム事業部員に対するヒヤリングにおいて、次の申告があった。
  ・Bは、ソフトカーム事業部の部員に対し、特段の理由なく罵声を浴びせる、怒鳴り散らす、さらには業務上の必要性に欠ける携帯電話の電子メールを多数回送信し、返信を強要する等の行為を日常的に繰り返していた。
  ・Bは、部下に対し、予算達成に向けて厳しい言葉を投げかけていた。
  ・特にAに対する行為は他の部員に比べて頻度が高く、強度の強いものであった。

(ウ)Bのヒヤリング
 これに対し、当委員会において行ったBに対するヒヤリングにおいて、Bは次のとおりに述べている。
  ・予算を達成したいという思いから部下を厳しく指導したことは事実である。しかし、それは自分が上司から受けた指導と同程度のものであり、パワハラという認識はなかった。
  ・事後に第三者から話を聞く等して、自分の言動が時代の変化によりパワハラと受け取られる可能性があることについては現時点では認識している。

(エ)パワハラの有無
 A及び他のソフトカーム事業部員に対するヒヤリングから、Bが、ソフトカーム事業部員に対し、パワハラと受け取られる可能性のある言動をしていたこと白体は否定することができない。
 しかしながら、当委員会において独自に行ったBのヒヤリングの内容を勘案すると、これをパワハラとまで断定することは困難である。
 ただし、仕事の遅さや杜撰さに看取されるAの事務処理能力の低さや営業に対する甘さ等を見かねて、BはAに対する叱責を繰り返していたことから、Bの言動により、AがBに対し、過度の恐怖心を抱き、心理的威圧を感じていた可能性は否定できない。

イ 過剰な飲食及びタクシーの利用について
(ア)Aのヒヤリング
 Aに対するヒヤリングにおいて、次の申告があった。
  ・Bは、平成23年5月に事業部長に昇進した時以降、多い時期は一週間のうちほぼ毎日、そうでない時期は週に3日程度の頻度で、早い時は午後2時頃から、主にAを連れて飲食(飲酒を伴う)に出かけ、夜になると他のソフトカーム事業部員を呼び出し、深夜まで飲酒するという行為を繰り返していた。
  ・銀座のバーやクラブで飲食することもあった。
  ・Bは、飲酒の翌朝は出勤時間が遅れることがままあり、酒の匂いがすることもしばしばであった。
  ・Bは、飲食後に千葉県所在の自宅に帰宅する際は、常にタクシーを利用していた(タクシー料金は1回あたり2万円超である)。

(イ)他のソフトカーム事業部員のヒヤリング
 他のソフトカーム事業部員に対するヒヤリングにおいて、次の申告があった。
  ・Bは、多い時期は一週間のうちほぼ毎日、早い時は午後3時頃から、主にAを連れて飲食(飲酒を伴う)に出かけ、夜になると他のソフトカーム事業部員を呼び出し、深夜まで飲酒するという行為を繰り返していた。
  ・銀座のバーやクラブで飲食することもあった。
  ・Bは、飲酒の翌朝は出勤時間が遅れることがままあり、酒の匂いがすることもしばしばであった。

(ウ)Bのヒヤリング
 これに対し、当委員会において行ったBに対するヒヤリングにおいて、Bは次のとおりに述べている。
  ・ソフトカーム事業部員としばしば飲食に出かけていたこと、帰宅時にタクシーを利用していたことは事実である。
  ・しかしながら、毎週3回という高い頻度で飲食をしていたことはない。
  ・銀座のバーやクラブにY社社長には連れて行ってもらったが、自分たちだけではそれ程行っていない。
  ・費用はおおむねソフトカーム事業部における交際費及び交通費の予算の枠内に止まっていた。

(エ)過剰な飲食の有無
 Bのヒヤリングの内容に鑑みると、A及び他のソフトカーム事業部員に対するヒヤリングの内容のみをもって、上記のような頻度での過剰な飲食が行われていたとまで断定することは困難である。
 もっとも、Bがソフトカーム事業部員を誘ってしばしば飲食に出かけていたことはB自身が認めるところであり、前述のとおり、AがBに対し恐怖心を抱いていたことから、AがBからの誘いを断れなかった可能性は否定できない。
 また、前述のとおり、ソフトカーム事業部の営業担当者は、外回りのために事務作業を行う時間を十分に確保することが困難であったところ、これに度重なる飲食が加わったことにより、Aにおいて事務作業を行う時間が絶対的に不足していた可能性がある。

3 検証

(1)Aによる不適切な会計処理の問題点
ア 受注時
 Aは、X社から注文を受ける際、口頭により注文内容を確認するのみで、X社との間で受注内容を注文書や受注伝票により確認していなかった。
 Aによる不適切な会計処理に関しては、注文書はもとより、売掛金業務記述書に記載された受注伝票も作成していなかったことが最大の問題であり、これによりX社からの受注内容が曖昧なままとなり、単価に関する合意が成立していないという事態が発生した。
 注文書もなく口頭での合意であれば、最初に発行する請求書の金額は仮置きの数字とするしかなく、その後に発行する請求書の金額は当初の金額を下回ることが通例であったから、最初の金額を訂正せずに新たな請求書を発行すれば、売掛金と買掛金の間に必然的に差異が生じることになる。
 また、X社が、主に九州地区の病院案件で利用していたバルク買い(売り)方式においては、バルク買いであることを前提に発注しているところ、Aにおいてその点を是正しないまま取引を進めたため、追加発注分に関しX社に請求書を発行することができず、X社との間に売掛(買掛)金の額に関し認識の敵齢が生じた。
 X社からの追加発注分について売上を計上するためには、Aとしては、バルク売りでないことをX社との間で明確に確認しておくべきであった。

イ 単価訂正(値引き)時
 Aは、赤伝を発行せずに請求書を再発行し、しかも販売管理システム上の処理を行っていないが、単価訂正(値引き)を行う際は、赤伝を発行することが一般的であり、本件でも適切に赤伝を発行し、販売管理システム上の処理も随伴して行われていれば、X社との間で売掛金の額で差異が生じることはなかった。
 また、Aは請求書の再発行とともに、当社の販売管理システム上、X社の支払予定日を延期しているが、これも売掛金の滞留を結果的に助長する原因となった。
 バルク売り(買い)方式でなくても、工期が長いと正式な単価が決まらないことがあり、かといって電話での仮単価の合意でとりあえず請求書を出しても、相手方は必ずしもこれに同意している訳ではないから、結局のところ、後に単価を訂正(値引き)することは不可避的に発生する。
 なお、Aは、単価訂正(値引き)をBに報告すればひどく叱られることから、それが恐くてとても報告できなかったと述べているが、ここでも心理的威圧の弊害が出ているといえる。

(2)期ズレにより生じた売掛金残高の差異
 期ズレとは、前述のとおり、売掛金の計上時期がずれること(期間差異)をいう。
 具体的にいえば、当社が売掛金を、たとえば出荷時に計上したにもかかわらず、取引先が買掛金を、たとえば検収時や請求書受領時に計上したとすれば、いわゆる期ズレが発生する。
 X社に対する当社の売掛金との関係でいえば、当社は出荷基準に従い、出荷時に売掛金を計上したが、X社では請求書を受領して以降に買掛金を計上したので、期ズレが発生した(ちなみにX社では請求書受領後の月末で締め、締口から5ヶ月後の日の属する月の10日に支払うこととしていた)。
 もう一つの期ズレは、バルク売り(買い)方式に伴い発生する。
 つまりバルク売り(買い)方式では、出荷が続いても最後の出荷が完了してから全体の請求書をまとめて送付することになるから、X社では請求書を受領した時に買掛金を計上することになる(支払期日は、前記と同様に請求書受領後の月末で締め、締日から5ヶ月後の日の属する月の10日)。
 しかるに当社では、出荷の都度出荷登録をし、その都度売掛金が発生するから、ここでも期ズレが発生する。

(3)入金予定日の操作(変更)
 Aは、最長で4ヶ月入金予定日を変更(ジャンプ)していた。
 この点に関しAは、そのヒヤリングにおいて、あくまでX社の支払予定日に平仄を合わせただけであり、滞留売掛金を滞留していないように見せかける意図はなかったと述べている。
 しかしながら、監査法人は、そのヒヤリングにおいて、Aがその発覚を恐れて入金予定日を操作したのではないかとの見解を示した。なぜなら、値引きをしているにもかかわらず赤伝を発行しなければ、当初請求額のまま残存している売掛金は、入金時には値引き分だけ入金額が少なくなり、
 その分が滞留売掛金として滞留することになるからである。加えて、監査法人は、そのヒヤリングにおいて、Aの信用性についても疑問を呈した。
 なぜなら、Aは過年度のX社の外部確認の際に、監査法人に対し、その差額が単なる期ズレであると説明していたが、それが後に虚偽であったことが判明したからである。
 いずれにせよ、Aによる入金予定日の操作(変更)は、バルク売り(買い)等に起因する当社の売掛金の計上時期とX社の買掛金の計上時期の相違を調整するために必要であったことが窺われるが、許可なくシステム上の登録データを変更したことは内部統制違反である。
 なお、既述のとおり、入金予定日の操作(変更)は、既に計上され発生している売掛金の額に直接の影響を及ぼすものではない。

(4)バルク売り(買い)により膨らんだ売掛金の額
 バルク売り(買い)方式では、売買代金額は一定額で決まっているから、製品の出荷が追加で行われても、それに対応した請求書は送付されず、X社が買掛金として認識する額は、当社が売掛金として認識する額を当然に下回ることになり、必然的に売掛金の額が水膨れする。つまり、出荷基準により売上計上するという当社の現在のシステムでは、追加の出荷であれ、出荷登録により自動的に売上が計上されるのである。
 もし、追加出荷分についての単価をゼロにし、売上金額がゼロになるような会計処理をしたとすれば、売掛金の水膨れを回避することはできるが、この場合でも売上に対応すべき売上原価の計上時期のズレの問題は解消されずに残ってしまう。
 現在のシステムでは、売上原価は、出荷数量に対し、売価に予定原価率を乗じた予定単価で、製品勘定から振替える会計処理をしているが、もしバルク売りにおいて、売上と売上原価の計上時期を対応させるとするならば、当初の出荷時(売上計上時)に売上原価を見積り計上しておくか、あるいは工事完成基準のように、最終の出荷時まで売上計上を保留しておき、
 出荷完了時に売上を計上すると同時に、製品勘定から売上原価への振替を行うという会計処理が求められる。
 ところで、当社のX社に対する売上において、主に九州地区の病院案件に利用されたバルク売り(買い)方式による売上が占める割合は、対X社に対する売上のおおむね3分の1であり、かかるバルク売り(買い)方式において請求金額を超えて出荷された製品の割合は、請求金額のおおむね3割程度であったとのソフトカーム事業部員の説明に依拠したとすれば、バルク売り(買い)により膨らんだ売掛金の額は、おおむね次のとおりと推計される。
  ・平成23年3月31日期~平成27年3月31日期の5年間の対X社売上の年間平均は、314,043千円である。
  ・バルク売り(買い)方式による請求金額がおおむねその3分の1であるとすると、104,681千円となる。
  ・バルク売り(買い)方式において請求金額を超えて出荷された製品の割合が請求金額のおおむね3割であるとすると、31,404千円となる。
  ・以上より、年間31,404千円分は、当社では出荷して売上計上しているにも関わらず、X社では買掛金として計上していない額となる。
 売掛金が膨らんだ一因には、バルク売りという特殊な販売方法があり、これもAが受注欲しさに無理をしたことが原因である。
                               (単位:千円)
 事業年度    第112期  第113期  第114期  第115期  第116期
  期末     H23.3.31  H24.3.31  H25.3.31  H26.3.31  H27.3.31
 X社への売上   159,620   225,055   329,191   364,697   491,650
 ソフトカーム事業部全体の売上
         1,877,159  2,017,341  1,924,200  2,253,239  2,234,899
  割合      8.5%   11.2%   17.1%   16.2%   22.0%
(5)予算達成に対するプレッシャー
 ソフトカーム事業部員に対するヒヤリングによれば、Aの不適切な会計 処理の原因として、A元来の業務遂行の遅さと杜撰さを指摘する声があり、これも不適切な会計処理のー因となった可能性は否定できない。
 しかしながら、外回りやBとの飲食により絶対的に時間が不足し、業務の遂行に支障が生じていた可能性も否定することはできず、主たる原因をA元来の性格に求めることには躊躇を覚える。
 加えて、Bにより予算達成に対するプレッシャーが相当程度かけられて いたため、予算の未達に直結する売掛金残高の下方修正に対し、Aに強い心理的威圧感があったことは想像に難くなく、不適切な会計処理を行う動機づけとなった可能性が高い。
 ソフトカーム事業部員のヒヤリングによれば、Bは売上予算の未達に関し非常に厳しく、叱責することも稀ではなかった。
 Bのヒヤリングにおいても、Bはソフトカーム事業部は毎年ゼロからの出発であり、ソフトカーム事業部自体がいつなくなってもおかしくないというプレッシャーは常にあり、売上30億・利益3億の目標があったと述べている。

(6)監督者の監督
 この他に、監督者の監督が奏功しなかったことも、不適切な会計処理を回避できなかった原因の一つであると解される。
 すなわち、BはAの直属の上司であることはもとより、売掛金業務記述書においても、営業責任者として、営業担当者が作成した納品書及び請求書をチェツクし、単価や支払条件の変更を監督する立場にあることが記載されているが、Bは、Aによる不適切な会計処理を見抜くことができなかった。
 X社に対する売掛金の残高を見れば、売掛金が滞留していることは明らかであり、BにおいてX社に対する売掛金回収の滞留をチェツクし、不正を見抜くことができていれば、売掛金残高の差異がここまで拡大することはなかった可能性が高い。
 なお、AはBを極度に恐れていたから、予算の未達(当期の売上減)につながる単価訂正(値引き)や支払予定日の延期(変更)をBに報告することは到底できなかったと述べているが、このことがBが不正を見抜くことができなかったことの一因でもあったと推察される。

(7)アンケート結果
 不適切な会計処理に関するQ3及びQ4に対し、「ある」と回答した当社役職員等は、合計172名中9名であるが、いずれもソフトカーム事業部員及び本件の調査に関与した役職員であり、本件を見聞きしたことがある旨を回答したものに過ぎない。
 アンケートにおいては、前記事実と異なる事実を示唆する結果は得られなかった。

(8)小括
 以上のとおり、売掛金業務記述書に、受注伝票で受注内容を確認しなければならないと規定されているにも関わらず、それが実行されていなかったこと、同様に単価訂正(値引き)が適切に行われていなかったことに問題があるが、少なくともX社との取引においては内部統制ルールが形骸化しており、その虚を突かれたというのが本件の実相であると思料される。
 いずれにせよ、証券市場に対し虚偽情報を開示して不正な利益を得ようといった不正な経済的利得を得る目的があったとは認められない。

4 結論
 当委員会の結論は、次のとおりである。

  ①関与者はAのみである。A自身が自らの関与を認め、Bその他の者が関与したことを認め得る的確な証拠は見つからなかったからである。
  ②売掛金残高の差異の理由として、期ズレ(それに伴う人金予定日の変更)分は、不適切な会計処理とまではいえない。なお、平成24年3月期以前にも不適切な会計処理があったことを示す証拠は見つからなかった。
  ③単価訂正(値引き)の索怠は、不適切な会計処理であり、入金予定日の変更も、許可なしにシステムの変更を行っている点では不適切な会計処理であるが、その原因は期ズレの他、Aが独自に行っていたバルク売り(買い)という無理な受注方法にある。
  ④X社との取引における受注伝票の未作成及び請求書の不発行は、内部統制ルール違反である(パワハラがあったとまでは認められない)。

【ひらく会情報部・この項続く】

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