<冷温停止宣言>国内外の不信払拭を優先 「拙速」指摘も
毎日新聞 12月16日(金)21時45分配信
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記者会見で質問に答える野田佳彦首相=首相官邸で2011年12月16日午後6時29分、藤井太郎撮影
東京電力福島第1原発事故の収束に向けた工程表のステップ2完了を受け、野田佳彦首相は16日の記者会見で「事故そのものは収束した」と訴えた。「同原発が安全になった」ことを宣言し、政府への国内外の懸念と不信を払拭(ふっしょく)することを優先したためだ。しかし、原発の外の「三つの課題」を解決する道筋は見えていない。記者団からは「宣言は拙速」との指摘も相次いだ。
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首相は原発事故について「全ての国民、世界中の皆様に多大な迷惑をかけ申し訳ない」と改めて謝罪。「原子炉の安定状態が達成され、不安を与えてきた大きな要因が解消される」と強調した。
しかし、依然9万人近くが事故に伴う避難生活を余儀なくされ、全国で放射性物質の検出が続く中での「事故収束宣言」は、被災地の実態とあまりにかけ離れている。首相も、宣言はあくまで工程表で政府が自ら定めた条件を満たしたに過ぎないことを認めた上で、「被災地感情として『まだ除染や賠償があるじゃないか』という気持ちがある。オフサイト(原発施設外)で事故対応が終わったわけではない」と釈明した。
ステップ2達成の前倒しは、細野豪志原発事故担当相が9月の国際原子力機関(IAEA)年次総会で表明した。これは国内よりもむしろ国際社会に向けて、早期収束への決意を示すのが狙いだった。
事故直後、米国が福島第1原発から半径約80キロ以内の米国人に一時退避を勧告するなど、各国は独自の対応を進めた。日本政府の対応の遅れに対する不信感が背景にあったのは明らかだ。国産食品の輸入規制や海外からの観光客の大幅減などの風評被害を一掃するためにも、ステップ2完了で、日本政府は海外からの信頼を取り戻す必要に迫られていた。
一方、原発の外に目を向ければ、住民生活の回復に向けた課題は山積している。首相は16日の記者会見で放射性物質の除染、住民の健康管理、被害者への損害賠償の三つを重点課題に挙げた。
特に「最大のカギ」と指摘した除染は、12年度と合わせて1兆円超の予算確保を明言。「さらに必要なら国が責任をもって予算を確保する」と語ったが、今後どこまで費用が膨らむか、有効な除染が本当にできるのかが見通せているわけではない。放射性物質への不安がぬぐえない中での避難区域の見直しに、自治体や住民から反発が出る可能性もある。【笈田直樹】