見えない予算:新型コロナ ワクチン7783万回分廃棄 契約数の9%、2120億円相当か 自治体アンケート
今年2月までに少なくとも7783万回分の新型コロナウイルスワクチンが使用されずに廃棄されたとみられることが、毎日新聞の取材で判明した。厚生労働省の公表資料や全国の主要な自治体へのアンケート集計で割り出した。ワクチンの有効期限切れが主な要因で、廃棄量は購入契約数の約9%に当たる。有効期限の到来によって今後も増える見通しで、有識者からは大量廃棄に至った過程について検証を求める声が上がっている。
◇期限切れ・接種控え影響
国はワクチンの1回当たりの購入単価を公表していないため、廃棄されたワクチンの費用を算出できない。ただ、財務省は購入予算額(2兆4036億円)を総契約数(8億8200万回分)で割った2725円を金額換算した場合の1回分として示している。この数字を掛け合わせ、廃棄されたワクチンを金額に換算すると約2120億円と試算することができる。厚労省幹部は「2725円を掛け合わせて廃棄されたワクチンの費用の総額を算出することには反対はできない」と述べ、実態と大きくかけ離れていないことを示唆した。
政府はコロナワクチンとして、米ファイザー社製3億9900万回分▽米モデルナ社製2億1300万回分▽英アストラゼネカ(AZ)社製1億2000万回分(後に6230万回分契約解除)▽米ノババックス社製1億5000万回分(1億4176万回分契約解除)をそれぞれ調達した。このうち、厚労省は従来型ワクチンの有効期限が切れたとして、廃棄数量がモデルナ社製で約6390万回分(自治体見込み分含む)、AZ社製は約1358万回分(同)に上ることを明らかにしている。
毎日新聞は2月、47都道府県と県庁所在地、政令市、東京23区の計121自治体に廃棄量や廃棄理由、接種体制の課題などをアンケートで尋ね、全自治体から回答を得た。モデルナ社製とAZ社製を除く廃棄量は35万回分だった。これらの数字を足し上げ、廃棄したワクチン量を約7783万回分と算出した。
アンケートでは廃棄理由として、ワクチンの有効期限切れを挙げる自治体が多かった。モデルナ製ワクチンの有効期限は9カ月だが、複数の自治体からは「有効期限が残り数カ月のモデルナ製ワクチンが届き、余らせないよう市町村間で調整したが一部は使用できなかった」(富山県)という回答があり、対応に苦慮した様子がうかがえた。
接種控えが廃棄につながったとの見方も多く、高松市は「副反応を警戒した打ち控えが影響した可能性がある」と記した。オミクロン株対応ワクチンの開発で従来型を希望する人が減ったことも影響した。
ワクチン1回当たりの金額換算として「2725円」と記載されていたのは、財務省の財政制度等審議会の分科会の資料。予算額には配送料も含まれており、実際のワクチン価格とは異なるが、購入単価はメーカー側と政府で秘密保持契約を結んでいるため、公表されていない。
また、アンケートでは今年11月までに47自治体で少なくとも70万回分の廃棄が見込まれていることも判明。実際の廃棄量は膨らむ見込みだ。
赤沢学・明治薬科大教授(薬剤経済学)は「ある程度のワクチンの廃棄は仕方ない。危機管理の面からもワクチンの在庫は必要だ。一方で、人と出会う機会や移動が多い都市部の人を優先するなど、リスクに応じた運用を科学的に議論する余地はあったはずだ。全ての人々に自治体を通じて満遍なく配り、効率性の視点が欠けた結果、無駄遣いにつながったのは否めない。今後に備え、検証が必要だ」と指摘した。【柿崎誠、寺町六花】