設備高額、診療所閉鎖も 保険証一本化、根強い不満
岸田文雄首相が、来年秋に健康保険証を廃止しマイナンバーカードに一本化する方針を当面は維持しつつ、見直すかどうかの判断は先送りする考えを表明した。廃止方針を巡り国民の不安払拭を最優先するとも述べたが、性急な一本化には不満が根強く、高額な設備に対応できないとして診療所を閉鎖する医師もいる。
京都市で医院を営む坂本誠(さかもと・まこと)さん(70)は、医院と別に20年以上続けてきた企業内診療所を9月末で閉院することを決めた。マイナ保険証を使ったオンライン資格確認のためには、専用のネット回線や機器の購入が必要だ。業者に見積もりを取ると数十万円の費用がかかる見通しで「診療所を維持するのは割に合わない」と判断した。生活習慣病などの診察を受け持つ患者30~40人には事情を説明し、他の医療機関への紹介状も作成している。
マイナンバーカードを巡るトラブル続発に、プライバシー保護の観点からも疑問があると感じている。医院ではマイナ保険証に対応しているが、持参する人はほとんどいない。トラブルを避けるため、院内にはカードと保険証の2枚を持参するよう求めた張り紙もしている。「患者としても、これだけトラブルがあり、信用できない面があるのではないか」と話す。
坂本さんは医療のデジタル化が進み、利便性が向上することには反対していない。ただ「(セキュリティーの)整備が不十分で信頼されていない中、政府は性急に事を進めすぎているのではないか」と懸念を口にした。
福岡市視覚障害者福祉協会副会長で、自身も視覚に障害のある登本弘志(のぼりもと・ひろし)さん(71)はマイナ保険証について「利用者側のメリットがよく示されておらず、1枚にまとめる必要を感じない」と指摘する。落とし物をした際に1人で捜すのが難しい視覚障害者にとって、紛失した際の個人情報漏出への心配は一層根強い。
医療機関で顔認証がうまくいかない場合、現時点では暗証番号の入力が必要だが、凹凸のないタッチパネルでは入力が難しかったと、別の視覚障害者の経験を聞いたことも。登本さんは「当初から想定できたはず。新しいものを開発する時には私たちにも思いをはせてほしい」と注文した。
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