気をつけないといけない危険な頭痛 岡山中央病院脳神経外科科長 平野一宏
2018年4月17日 (火)配信山陽新聞
今回は、気をつけないといけない危険な頭痛をテーマにお話しします。まず働き盛りの年代を襲い、命に関わる頭痛であるくも膜下出血についてです。
●「経験したことがない突然の激しい頭痛」=くも膜下出血
「急に頭が痛くなり、思わず時計を見たら○時○分○秒でした」「誰かに後ろ頭をハンマーで殴られたと思い、振り返ったが誰もいなかった」―などと患者さんがおっしゃいます。このように、突然、雷が落ちたみたいに起こり、1分未満でピークに達する強い頭痛を雷鳴(らいめい)頭痛と言います。
通常、吐き気や嘔吐(おうと)も起こり、頭痛のために何もできなくなってしまいます。いわゆる頭痛持ちの患者さんでも、いつもの頭痛と同じかどうか尋ねると、「いつもの頭痛と全然違う!」と言われます。
雷鳴頭痛の患者さんが受診されたら、直ちに頭部CTを行います。雷鳴頭痛の多くが、脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)が破裂したことで起こるくも膜下出血だからです。
一度破裂した脳動脈瘤は自然治癒や薬物治療での改善は期待できず、クリッピング手術か脳血管内治療を行わなければなりません。CT画像でくも膜下腔(くう)という脳の隙間に出血がみられたら、安静にしていただき、注射で血圧管理を始めます。破裂した脳動脈瘤がどこにあるのか、どのような治療を選択するかを考えながら、さらに検査を進めます。
●「ズキンズキン、脈打つように痛む」=脳動脈解離
患者さんが「急に片方の後頭部がズキンズキン痛みだした」と言われ、それが脈打つような痛みであれば脳動脈解離を疑います。動脈解離とは、内膜、中膜、外膜の3層になっている動脈の壁のうち、一番内側の内膜に傷ができ、その傷から血液が血管の壁の中に入り込む状態です。私は「血管の壁が裂けた」と説明しています。
内膜と中膜の間が裂けると、血液の通り道が狭くなって脳梗塞が起きたり、中膜と外膜の間では、血液が動脈周囲に漏れ出してくも膜下出血になったりする場合があります。頭痛とともに注意が必要です。
検査は、頭部MRI、脳血管撮影の他に、造影CTを行い、血管の立体画像を構成する3D―CTAもあります。脳動脈壁内に入り込んだ血液が見えたり、動脈が細くなったり、蛇が卵をのみ込んだみたいな瘤(こぶ)のできた動脈が見られれば、脳動脈解離と診断します。
脳動脈解離の患者さんは約半数に高血圧があり、症状が頭痛だけの場合は鎮痛薬を処方し、血圧を管理することが治療の中心になります。
●「頭痛がだんだん強くなる」「動くと頭痛が強くなる」=髄膜炎
「風邪をひいた後、頭痛がだんだん強くなる」「体を動かすと頭痛が強くなるので動けない」―と言われる患者さんに、発熱や、後ろ首の筋肉が硬くなる項部硬直(こうぶこうちょく)という兆候がみられると、髄膜炎を疑います。
髄膜炎には、細菌性とウイルス性があります。細菌性髄膜炎は重症化すると意識障害やけいれんを起こし命に関わります。髄膜炎を疑った場合はすぐ髄液検査を行います。
細菌性髄膜炎の場合、安静を保ち、解熱鎮痛薬、抗菌薬やステロイドホルモンの点滴で治療します。ウイルス性髄膜炎は安静にして鎮痛薬を処方します。
●「頭痛がどんどん強くなる」=脳静脈洞血栓症
脳静脈洞血栓症は、多くみられる病気ではありませんが、意識障害や麻痺(まひ)、けいれんを伴うこともあります。「頭痛がどんどん強くなり、吐き気も出てきた」と言われる患者さんが受診されたら、経口避妊薬などの内服薬を服用していないか確認した上で、頭部CTやMRI検査を行います。血栓で閉塞(へいそく)した静脈洞がみられたら、抗凝固薬で治療を開始します。
このように、命に関わる注意しないといけない頭痛の特徴は、「突然起こる」ことと「いつもと違う強い痛み」です。次回は頭部外傷についてです。
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岡山中央病院(086―252―3221)
ひらの・かずひろ 川崎医科大学付属高校、川崎医科大学卒。川崎医科大学付属病院勤務を経て、2014年に岡山中央病院脳神経外科へ赴任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。